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作品紹介

花柳十種

京舞京舞

北條秀司の作品で、昭和35年4月明治座で初演。
京舞井上流三世井上八千代の芸への執念を描いた作品。主役の片山春子役は、八十二歳から百一歳までという高齢を演じ分けなければならない難役。

花柳の役=片山春子

あらすじ

大正8年の早春、井上八千代こと片山春子の家の中、しんと静まりかえった稽古場の控えの間で、稽古でヘマをやり謹慎していた舞妓のまつ子が空腹と疲れで眠り込んでいた。そこへ、まつ子と同じ15歳で春子師匠の内弟子をしている愛子が、春子に内緒でおにぎりを持ってくる。そこへ、春子が外出先から帰ってきた。春子は八十二歳とは思えぬ元気さで、門弟からは鬼と怖がられているが、稽古の時を除いては童女のような無邪気な人だった。愛子と共に神妙に出迎えるまつ子を見た春子は、御膳も食べずに感心だと喜び、まつ子の困惑など頓着せずに夜通しの稽古を申し出る。仕方なく師匠の前に立ったまつ子は、緊張のあまり二度も同じところを間違え、癇癪をおこした春子に張扇を投げつけられる。まつ子も思わず「くそ婆!」と怒鳴り返すと一目散に走り去った。後を追おうとした愛子を引き留めた春子は、今度は愛子におさらいを命じるが、何度やり直させても気に入らず、丁度やってきた門弟頭の佐多にこの娘はものにならんよってあんたに返すと言ってしまう。春子に突き放され、泣きじゃくりながら稽古場を後にした愛子は、誰もいなくなると隠れていた押入れからそっと這い出して一人稽古を始める。その姿を見つめていた、春子の孫で能楽師の道を歩んでいる博通が、愛子のいじらしいまでの辛抱強さに感心してパンの入った袋を差し出し、やさしく立ち去る。袋を押しいただいた愛子は、自分の心の奥底の情熱を持て余して泣きながらパンを頬張るのだった。
それから数カ月後、愛子は、亡き夫の墓参りに行った春子を迎えに円山公園の茶店しまやへ行った。そこの女将のおまきは、自分の果たせなかった夢を愛子に託して励ましていたのだった。やがて万亭の主人杉浦を連れた春子がやってくる。杉浦が京舞の次を託すべき意中の人の名を聞くと春子は愛子の名を口にする。それを影で聞いた愛子とおまきは抱きあって泣くのだった。
それから十八年の歳月が流れた昭和12年、祇園歌舞練場の舞台では春子の百歳を祝う会が催され、会場はお祝い気分であふれていた。しかし楽屋では愛子と博通夫婦を始め誰もが気をもんでいた。このあと春子が舞う事になっているのだが、気が変わりやすい家元のこと、果たしてどうなるか気が気でなかったのだ。散々わがままを言い、次第には踊る曲目を変えたいとまで言いだしたその時、売り出し中のバレリーナ若園まつみが贈り物を届けにきた。まつみとはかつて春子に罵声を浴びせて飛び出したまつ子だったのだ。彼女が旧師に心から詫びると春子は舞台へ向かった。杖にすがり、愛子に手を引かれて舞台のそでまで行った春子の曲がった腰が、舞台を前にぴいんと伸びた。「春子、唯今、無事に、舞い納めました」と舞台で頭を下げる春子の姿に、万雷の拍手がいつまでも鳴り響いていた。翌年の初秋、京舞三世家元井上八千代こと春子は百一歳の長寿を全うして永遠の眠りについた。家元の枕元で四世家元に推薦された愛子は、皆が引き揚げて一人になった時、あまりの重責に枕元で号泣するのであった。
二十年の歳月が過ぎて昭和三十三年、四世家元の血の出るような努力で戦争を乗り越えた京舞は、見事な復興を遂げていた。四世家元はその功でさきに芸術院賞を受賞したが、このたび芸術院会員に推挙され、その二重の喜びを祝しての会が祇園歌舞練場で開かれている。みんなに祝福を受けた愛子は、堂々とした舞を見せる。すると愛子は、舞台の隅に春子が座っているのを感じる。春子は満足そうな微笑みをたたえ、愛子の舞台に合わせて手振りをしていた。その夜愛子は夫の博通との帰り道で、永年に亘り芸に打ち込めるよう支えてくれたお礼を言った。照れながら会合へ出掛けて行く博通を見て、愛子はつくづく自分は幸せ者だと思った。そこへ通りかかったのはしまやのおまきだった。若いころの愛子を励まし、彼女が姉のように慕っていたおまきだったが、京都から姿を消して以来何十年も音信不通だったのだが、聞くといまは奉公の身だという。そのお家に頼みに行きますから、一生そばにいてくださいという愛子の言葉に、おまきの老いた肩がふるえたのだった。

花柳十種
歌行燈
鶴亀
大つごもり
あじさい
夢の女
鶴八鶴次郎
遊女夕霧
佃の渡し
「京舞」

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