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新派について

初春新派公演『麥秋(ばくしゅう)』

映画『麥秋』上映&トークショー

初春新派公演『麥秋』の公演に先立ち、12月20日(日)早稲田松竹で映画『麥秋』の上映及びトークショーが行われ、山田洋次監督、水谷八重子、波乃久里子、瀬戸摩純、スペシャルゲストとして映画『麥秋』に出演した淡島千景さんが加わり、公演への意気込みや映画の思い出などを語りました。

───映画『麥秋』を見て
山田 洋次:
この映画を最初に見た頃は、「こんな良い暮らしなんか、今の日本人がしているものか」と思ったものです。まだまだ食料不足で、銀座に出て天ぷらを食べるなんて夢みたいな事だと思っていました。それが今見ると、ああこんな質素な時代があったなあと、五十数年の歳月を改めて思います。小津監督の作品は全て家族を淡々と描いています。日常の暮らしを丁寧に描く世界でも全くユニークな監督ですし、世界中の監督が小津安二郎を尊敬し、日本を代表する監督だということは間違ありません。
水谷 八重子:
印象に残っているのは、子供達が2人で家から飛び出して、海辺を散歩しているときに、ガードレールが見えるのですが、コンクリートの柱は見えても、あるべき鉄のガードが無いんです。なんの説明も無いけれど、これは戦争で提供されたのだなと思うと戦争の傷跡が見えて参ります。
波乃 久里子:
松竹大船撮影所で撮影されたこの作品からは、撮影所の方々の素晴らしい人間性が見えて参ります。舞台で私が演じる間宮史子役の三宅邦子さんを拝見しても、役者としての志の高さを感じます。舞台の『麥秋』もこの映画のような志の高い、品の良い素晴らしい作品になればと思っています。
瀬戸 摩純:
このような大きなスクリーンで拝見しますと、私が舞台で勤める間宮紀子役の原節子さんの美しさを改めて感じます。印象に残るシーンは沢山ありますが、ある日曜日、孫達は模型の電車遊び、未婚の紀子たちは2人で結婚について話し、父・母は博物館に行く。同じ一日でも三世代はそれぞれに違いがあり、その中で父が、家族がバラバラにならず一緒にいる今が一番良い時期かもしれない、とぼそっと言うシーンには特に胸が熱くなります。
淡島 千景:
小津先生の映画には三作品に出演させていただきましたが、一番最初がこの『麥秋』でございました。当時は小津組と呼ばれ、皆に怖い組みだと言われていましたから初めから萎縮しておりました。小津先生は、先生の中にちゃんと構図というのがあって、小道具一つ違っていてもそれが間に合うまで撮影はなさらなかったですし、俳優のちょっとした動きでもそれに合わない場合は、何度も繰り返し撮影したことを良く覚えています。
───初春新派公演『麥秋』に向けて
山田 洋次:
小津監督の作品と新派の舞台とはとても相性が良いのではないかと感じています。映画をなぞって創っているつもりですが、演出家も俳優も違うので当然別な物になりますし、お客様にどう受け止められるかは初日を迎えるまで判りませんが、もっと素敵なものになればいいと念じています。寅さんの第一作の試写会で、スタッフが中心だったせいか誰も笑わないのでがっかりしたこともありましたが、公開して実際にお客様が入った時には大爆笑でした。今回も不安と期待でドキドキしています。
水谷 八重子:
素晴らしい映画を拝見した直後ですが、今私の心の中は、小津『麥秋』というよりも、山田『麥秋』で一杯です。山田監督とお目にかかれて嬉しくて、舞台が上演出来ることを楽しみにしています。今から121年前、最初に現代劇を行った劇団が新派ですが、それが今や古典と呼ばれる時代になりました。新しく生まれる『麥秋』が昭和という時代を切り取った新派の名作と言われる作品になるようにと思っています。
波乃 久里子:
お稽古では、山田監督と向き合い色々なことを教えていただいております。普通の主婦というものを自然に演じるのは本当に難しいことだと感じています。そして、このお芝居の『麥秋』を三越劇場という素晴らしい劇場で上演できることを大変嬉しく思っています。お芝居によって劇場との相性は様々ですが、今回の三越劇場は『麥秋』にとってまさに恰好の舞台、きっと素晴らしいお芝居になると思っています。
瀬戸 摩純:
お稽古はとてもよい緊張感の中で進んでいます。新派は古典的なものから、現代的なものまで、今のお客様のニーズにあったお芝居ができる劇団です。この『麥秋』を大先輩とご一緒して舞台で上演出来ることが大変楽しみですし、皆様にぜひご覧いただきたく思っています。
淡島 千景:
日本にはいろんな歴史や風習が沢山ございます。その中で私たちは育ってきておりますから、そういう物は無くしたくないと思っています。小津先生の作品を舞台にする中で、皆さんが『麥秋』を選ばれたのは、きっとそうしたものが作品の中にあるからでは無いでしょうか。山田先生が演出をなさる『麥秋』はきっと新しいものになると思っていますし、早く舞台を拝見したいと思っています。

この日、早稲田松竹は立ち見が出る程お客様でいっぱいになり、豪華な顔ぶれによる熱気あふれるトークショーとなりました。

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