《ナクソス島のアリアドネ》みどころレポート

2022年4月15日 金曜日

音楽評論家 加藤浩子

舞台裏のドタバタを浄化するオペラの魔法〜

 

開演直前にトラブル勃発!上司の命令に従わなければギャラはなし!さあ、どうする?


リヒャルト・シュトラウスの《ナクソス島のアリアドネ》は、オペラの舞台裏のてんやわんやを描く「プロローグ」とそれに続く「オペラ」からなる、小粋でユニークなオペラだ。

舞台裏で起こる「プロローグ」の主役は「作曲家」。自作の上演を目前に、彼を雇ったパトロンから「壮麗な悲劇と喜歌劇を一緒に上演しろ」という無理難題を突きつけられる。本作が設定されている「18世紀ウィーン」ではよくあった話だろう。作曲家のモデルは、シュトラウスが「音楽史上最も霊感に富んでいる」と敬愛していたモーツァルトだ。怒り、苦悩する作曲家の姿が、モーツァルトとダブってくる。それを尻目に、「私のパートを削らないで!」「カツラが気に入らない!」と文句タラタラの「オペラ」の主役たち。あるある!の醍醐味だ。

 

けれどいざ「オペラ」の幕が上がると、さっきまでの諍いはどこへやら、恋人に棄てられたアリアドネが新しい恋によって再生する物語が、時にまばゆく、時にコミカルな音楽で綴られてゆく。輝くばかりのシュトラウスの音楽がもたらす圧倒的なクライマックスに身を委ねる時、出演者もそして私たちも浄化される。これぞ、オペラの魔法。

 

《ナクソス島のアリアドネ》は、シュトラウスの数多いオペラの中でもとびきり贅沢なオペラだ。「プロローグ」と「オペラ」で二つのストーリーが楽しめるのに加え、18世紀の伝統的なオペラや喜劇オペラ、古典演劇など、いろいろな要素がぎっしり詰まっている。音楽もそれに応じて千変万化。クラクラする超絶技巧が連発されるツェルビネッタのアリアから、棄てられたアリアドネの心を打つモノローグ、最後を飾る恍惚の愛の二重唱まで、退屈する暇がない。

 

《ナクソス島のアリアドネ》はM E Tでも高い人気を誇るオペラだが、今回ほどキャストが揃った公演は珍しい。メゾのスター、イザベル・レナード演じる美形の作曲家は悩ましくも共感を誘い、19-20シーズン《アグリッピーナ》で大ブレイクしたブレンダ・レイ演じるツェルビネッタの、さりげなく繰り出される超絶技巧に息を飲む。とはいえ今回の公演のプリマドンナは、ズバリ「プリマドンナ/アリアドネ」を演じたライジングスター、リーゼ・ダーヴィドセン。豊麗で潤いに満ちた声がこんこんと溢れ、METの広大な空間を満たすさまは圧巻だ。

 

日本でも大人気の名匠マレク・ヤノフスキの指揮も、シュトラウスの音楽の美しさをとことん堪能させてくれる。

楽しめるのは音楽だけではない。エライジャ・モシンスキーの演出は、視覚的な喜びもたっぷり味合わせてくれる。プロローグは文字通りの舞台裏だが、ウィーンの大豪邸の私的な劇場という特別な空間を忠実に再現。18世紀の貴族社会にタイムスリップさせてくれる。さらに「オペラ」では、神話にふさわしい抽象的な美しさと、カラフルな道化芝居の両方が楽しめる。本作に盛り込まれた3つの音楽劇が、それぞれの内容を最高に際立たせるヴィジュアルで体験できるのだ。

 見逃せないのは、今シーズンの劇場プログラムの表紙にもなっている、丈の高いスカートを履いた3人のニンフ(妖精)の登場シーン!あのスカートの秘密は、インタビューで語られます。お楽しみに!