「クイーン」のフレディ・マーキュリーが愛したオペラの世界!《カルメン》まもなく公開!

2019年3月1日 金曜日

先日第91回アカデミー賞にて、フレディ・マーキュリー役を演じたラミ・マレックが主演男優賞を受賞したことでも話題の大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、劇中の重要なシーンで《カルメン》のテーマ曲ともいえる〈ハバネラ〉が登場します。ロックバンド「クイーン」のボーカルでありながら、オペラにも深く傾倒していたフレディ・マーキュリー。METライブビューイング《カルメン》の上映に先駆け、フレディ・マーキュリーとオペラ、ロックとオペラの世界について、音楽ライターの小田島久恵さんにご執筆いただきました!

 

 

 

映画『ボヘミアン・ラプソディ』に夢中になった人々が次に見るべきは、オペラ!

フレディ・マーキュリーが愛したオペラの世界が躍動する《カルメン》”

 

第91回アカデミー賞で4冠を獲得し、主役のフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックは初ノミネートで見事主演男優賞を受賞した『ボヘミアン・ラプソディ』。2018年に公開されて4か月目に入るのに、まだ一向にフィーバーがおさまらない『ボヘミアン…』現象だが、あの映画にはとても印象的なシーンがある。レコード会社の重役室に呼ばれたロックバンド「クイーン」のメンバーは、「次も『キラー・クイーン』のような曲を書いてヒットを飛ばせ」と命令されるのだが、フレディは「次の俺たちのアルバムはオペラだ!」と言い放ち、アナログプレイヤーでビゼーのオペラ《カルメン》の、有名な楽曲〈ハバネラ〉をかけるのだ。重役は「今さら誰がオペラなんて聞くか!」と怒り狂うが、バンドメンバーたちは言うことをきかない。フレディとクイーンがこのとき構想したアルバムは『オペラ座の夜』(1975)となり、英国や日本のみならず全米も制覇して全世界でヒットし、クイーンの名を不朽のものにする。あの名曲『ボヘミアン・ラプソディ」もこのアルバムに収録された。

 

 フレディはオペラを愛していた。ロック・ミュージシャンとして不動の地位を築いた後も、歌手としての理想はつねにオペラ的な世界にあった。映画では、成功していくにつれ期待が高まっていく運命を恐れ「これからは絶対に、音程を外せなくなる…」と青ざめた表情で恋人のメアリーに心の内を明かすシーンがあるが、彼が目指していた歌唱の完成度は、オペラの次元に近いところにあったのだ。正確な音程、きらびやかな高音と伸びやかな発声、そして技巧的でドラマティックな表現力である。そこには厳しさがある。ただシャウトして観客をノセればいいのではない。緻密に作った物語を聴かせること、入念なトレーニングでパーフェクトな声を聞かせること、派手な衣装で「何か」を演じること…それは見事にオペラの美意識に通じていた。フレディは晩年近く、当時のオペラ界の大スター歌手モンセラート・カバリエとデュエットも録音している。バルセロナ・オリンピックまで生きていれば、彼女とセレモニーでデュエットを歌う予定だったのだ。

 

 ロックとオペラは遠いようで、意外に近い関係にある。オペラの世界にもカリスマやスターたちがいて、夏の音楽祭ではスタジアムをいっぱいにしてスクリーンに顔を映し出しながら熱唱する。オペラの物語にはロックのライヴに負けないドラマティックな感動と胸騒ぎがあるし、歌われているのはたいてい愛とか恋とか嫉妬のことだ。そして、一度好きになると、どんどんのめりこんでしまうという点も似ている。とても中毒性の高いジャンルなのだ。CDやDVDを鑑賞しているだけでは満足できなくなると、生の舞台を観たくなり、オペラのさまざまな「聖地」に旅したくなる。海外に行かなくても日本にもオペラハウスがあるし、海外の劇場も引っ越し公演で年に何度かやってくる。私自身、オペラの公演に足を運ぶ時の気分は、昔ロックのコンサートに行くときの気分とかぶってしまうのだ。一緒に歌ったり頭を振ったりはしないけれど。

 

 フレディの映画の魅力は、台本のこまごまとした部分よりも、歌のシーンに集約されていたと思う。ラミ・マレックがアカデミー賞主演男優賞をとったのも、歌うスターであるフレディがあまりに特異で、桁外れの魅力をもっていたからではないか。オペラにも、フレディのようなシンガーがたくさんいる。信じられない高音を連続して出すテノール、どんな女優よりも濃厚な演技をするソプラノ、妖艶で悪い女にもなるメゾ、最強の女たらしにもなるバリトン…これらの歌手の魅力が溢れ出すのは、やはりオペラと言う物語の世界の中だ。オペラには魔法のような魔力がある。

 

 食わず嫌いなら、まず最初に《カルメン》を見てみるのはどうだろう。フレディが映画でかけていたあのオペラである。退屈なシーンがひとつもなく、すべてがハイライトシーンのような完璧なエンターテイメントの世界で、哲学者のニーチェもこのオペラの大ファンだった。〈ハバネラ〉〈セギディーリャ〉〈闘牛士の歌〉など、耳にした瞬間「あっ、知ってる」と思う曲も多いはずだ。そこから、さらに好きな歌が増えていく。エキサイティングな場面の連続に釘付けになる。オペラ歌手がすごいのは、やはり演技しながら、素晴らしく正確な音程で歌うことだ。高音のシーンは特に興奮する…彼らも命懸けで究極の声を出しているのだ。それが成功するかどうか…観客も見守る。われわれも見守る。歌手の冒険が成功したときの大きな歓声は、オペラならではのものだ。

 

 メトロポリタン歌劇場の上演を映画館で観られるMETライブビューイングは、『ボヘミアン・ラプソディ』に夢中になった人々が次に訪れるべきスクリーンだ。フレディが愛した世界が生き生きと躍動している。《カルメン》でドン・ホセ役を歌うロベルト・アラーニャはオペラ歌手でありながらポップスのアルバムも出すなど魅力的で、ストーリーは刺激的、映像にはダイナミックな迫力がある。「クイーンみたいな」バンドがもはやいない今、ファンが見るべきものはオペラしかない、とも思う。一年後には、お気に入りの歌手の名前をズラリと語れるオペラ・マニアになっているかも知れない。

 

(音楽ライター小田島久恵)

写真(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

 

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