《連隊の娘》みどころレポート

2019年4月3日 水曜日

音楽評論家 加藤浩子

驚異の高音に心震わせる装飾歌唱!

今いちばんホットな歌手たちと大女優が魅せるとびきりのラブコメディ

 

ドニゼッティの《連隊の娘》は、とびきりのラブコメディだ。フランスの連隊に拾われ、兵士たちに育てられた孤児のマリーと、チロルの村の若者トニオがさまざまな難関を乗り越えて結ばれるまでが、多彩にしてチャーミングな音楽で描かれる。トニオがハイCを連発する超難関アリア〈ああ友よ、なんと嬉しい日!〉、マリーが連隊に別れを告げる心にしみるアリア〈さようなら〉、連隊仲間が繰り広げる愉快な〈連隊の歌〉、侯爵夫人がマリーを教育するコミカルな歌のお稽古のシーン、そして幕切れのドタバタ…耳も心も楽しめるのが、《連隊の娘》というオペラなのである。ナポレオンが亡くなってほぼ20年後の1840年にパリで初演されたオペラなので、時代背景に「ナポレオン戦争」が使われているのも意外な隠し味だ。この作品のちょっとノスタルジックな雰囲気は、そこにも一因があるような気がする。

 

 METの《連隊の娘》は、「とびきり」のオペラに捧げられた「とびきり」のプロダクションである。音楽と演劇を知り尽くしたロラン・ペリーの演出は、生き生きと想像力豊かで、細部までインスピレーションにみちている。鼻歌を歌いながら、連隊仲間のためにじゃが芋を剥き、アイロンをかける明るく健気なマリー。マリーを優しく見守り、最後は連隊仲間と戦車を仕立てて彼女を取り戻しに行くトニオ。笑わせながらもほろりとさせるドニゼッティの音楽の暖かさ優しさを、ここまで粋に豊かに描いた演出は他にない。

 

このプロダクションが2008年にMETに初登場した時、洒脱な演技と素晴らしい歌唱で聴衆を魅了したのはJ・D・フローレスとN・デセイだった。それから10年、現在最強のカップルが再びMETの客席を沸かせた。J・カマレナとP・イェンデ。最近よく共演して息もぴったりの2人は、METに続いてパリのオペラ座でドニゼッティのコメディ《ドン・パスクワーレ》で共演するなど、目下世界を席巻しているベルカント・カップルである。


豊かで張りのある高音を持つカマレナは、なんと〈ああ友よ、なんと嬉しい日!〉をアンコール。合計18回のハイCを連発して、METの大空間を興奮の坩堝に叩き込んだ。声にも演技にも光を集めるような明るく活発な存在感があるイェンデは、まさに「聴きどき」のマリー。心の震えをあらわすような、繊細できらめきのある装飾歌唱も素晴らしい。即興的な部分では、母国である南アフリカの言葉ズールー語を挟むという離れ技もやってのけた。

 この2人に加え、侯爵夫人役ステファニー・ブライズの怪演、そして名女優キャスリーン・ターナーが初オペラに挑戦と、今回の《連隊の娘》は見どころ聴きどころ、そして話題が満載だ。幸せ度120パーセントの名舞台、見逃す手は、ない。

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