《トゥーランドット》みどころレポート

2019年11月7日 木曜日

コンサートソムリエ 朝岡聡

 

METには、長年にわたって愛され再演が繰り返される「伝説の名演出」がいくつかある。

今回のゼフィレッリ演出による《トゥーランドット》もそのひとつ。

 

1987年以来多くの名歌手がその舞台を彩ってきた。

彼はイタリア映画の巨匠ビスコンティのスタッフとして美術・装置を担当して演劇界に入り、のちに自ら監督も務めて映画「ロミオとジュリエット」を大ヒットさせた。オペラ演出では正統派の巨匠として、美しく調和のとれた豪華な舞台づくりが特徴だ。ただし、衣装やセットがゴージャスなだけではなく、時代考証に基づく細部へのこだわりや人の動かし方にも独特のものが感じられる。

 

たとえば今回の《トゥーランドット》で注目は群衆の動き。このオペラは合唱=すなわち群衆が重要な要素で、ゼフィレッリ演出は随所に現れる群衆を巧みに配置し、鮮やかに動かすことで舞台を一大スペクタクルに仕上げるのだ。主演歌手のアップの画像と舞台全体の画像が同時に楽しめるライブビューイングのスクリーンなら、その素晴らしさを堪能できる!

 

 

 演奏面では、昨シーズンから音楽監督に就任したネゼ=セガンがMETで初めて指揮するプッチーニに期待が高まる。躍動感や生命力、繊細にうねる情感…とにかく彼の音楽は常に生気がみなぎっている。今回はスケールの大きいオーケストラと合唱、大胆な和声や音階の使い方、強力な歌手陣といった《トゥーランドット》の音楽要素をどんな風に結びつけて料理してくれるのか、この人ならではの響きが聴く者を虜にするに違いない。そんなMETのシェフの指揮をスクリーンでもしっかりと楽しもう。

 

そして、タイトルロールを歌うのは昨シーズンのワーグナー《ワルキューレ》ブリュンヒルデ役で評判となったクリスティーン・ガーキー。アメリカを代表するドラマティック・ソプラノ。美しさに強さを重ねたその声は、トゥーランドットの強烈なキャラクターには理想的で、本人もこの役は十八番にしている。傲慢威圧的な場面もさることながらラストシーンにむけて愛に目覚める歌唱も聴きどころだ。

 

 カラフ王子は、アゼルバイジャン出身2015年にこの役でMETデビューしたユシフ・エイヴァゾフ。実生活ではあのアンナ・ネトレプコと仲睦まじい夫婦だが、本作では自らの命も顧みない愛の挑戦者の姿を、自慢の輝かしい高音で存分に示してくれるはず。ほかに、カラフに一途な想いを寄せて愛に殉ずる女奴隷リューはイタリアのエレオノーラ・ブラット、カラフの父王ティムールにはアメリカの大御所バス・バリトン、ジェイムズ・モリスと「さすが、MET!」と思わせる実力歌手が勢ぞろい。

 全てにおいてゴージャス、あらゆる場面に納得。一生モノのこの《トゥーランドット》は見逃せない。

 

 

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