エジプト考古学者・吉村作治さんが語る《アクナーテン》の時代!

2020年2月13日 木曜日

オペラ「アクナーテン」上映によせて

 

 古代エジプトというと、日本人の誰もが思い浮かべるのは、ピラミッド、ミイラ、ツタンカーメンといったところでしょう。私がエジプト考古学者を目指したきっかけになったのも、小学校4年の時、いじめられっ子に追いかけられて飛び込んだ図書室で出会った「ツタンカーメン王のひみつ」という1冊の本でした。私は以来、エジプト考古学者の道を半世紀、歩んでいます。

そしてアクナーテン、この馴染みのないファラオこそ、あのツタンカーメンの父王にあたる人物なのです。今から約5000年前に、ナイル川のほとりに花開いた古代エジプト文明は、クレオパトラ女王がローマ帝国に滅ぼされるまで3000年間にわたって30の王朝が続きました。

 

  • ツタンカーメンの黄金のマスク


    古代エジプト人は来世を信じ、この世で死を迎えても、オシリス神の法廷で最後の審判を受けて無罪になれば、あの世で永遠に生きられるという死生観を持っていました。そのためにあの世から魂が戻って来た時に必要な身体をミイラとして保存し、墓の中には来世での生活に不自由しないようにと生前使っていた品などを納めたのでした。つまりお墓というのは宝の山でしたからほとんどが古代に盗掘されてしまい、墓の中には何も残されていなかったのです。

 

ところが1922年に発見されたツタンカーメン王の墓は、ほぼ手付かずの状態だったため、ミイラは黄金のマスクをつけ黄金の棺に眠り、素晴らしい財宝が副葬品として納められていたので一躍、世界的ニュースになりました。

日本ではあまり知られていないアクナーテン王ですが、欧米では太陽神アテンだけを崇拝する一神教を唱え、宗教改革を行ったファラオとして有名です。古代エジプトでは多神教といって、太陽や月、動物、鳥などを神として崇めていました。そしてその神々の頂点に君臨していたのはアメン神で、都テーベ(現在のルクソール)東岸のカルナク神殿は、総本山として隆盛を極めていたのです。今から約3300年前、新王国時代第18王朝、そんな時代に、太陽神アテンだけを信奉し、都もテーベからアマルナの地に遷都したアクナーテン王の革命は、エジプト宗教界を揺るがす大事件だったのです。

 

オペラはこの史実をベースに、アクナーテンと王妃ネフェルティティ、父王アメンホテプ3世と太后ティイたちが織りなす激動の時代を見事に表現しています。劇中では、ジャグリングなど斬新な演出も目を引きますが、アクロバットダンスなどと共に古代エジプトでは宴会や祭りによく披露されていたもので、神殿の壁画などにもレリーフが残されています。

 

ネフェルティティの胸像

アメンホテプ3世は古代エジプト時代もっとも繁栄した時代のファラオであり、その太后ティイも絶大な権力を持っていました。さらに王妃はミタンニという隣国から嫁いでいた女性で、ネフェルティティとは「やってきた美女」という意味なのですが、この王妃が王の宗教改革に大きな影響を及ぼしたともわれています。

しかしアクナーテン王が夢見た、愛に溢れたアテン神崇拝の世界は、突然の王の死によってわずか10数年で幕を閉じます。アマルナの新都は廃され、アクナーテン王と側室との間に生まれた王子ツタンカーメンが9歳で即位して、再びエジプトは多神教の世界へ戻りました。この短い時代を、都の名をとってアマルナ時代と呼びますが、この時代はそれまでの古代エジプトの伝統的な様式を脱した、自由で自然な作風が花開きました。

私はエジプト各地で発掘していますが、アメンホテプ3世の祭殿址やツタンカーメン王の側近の墓などを発見しています。そして砂の中からツタンカーメン王夫妻の指輪が発見された時の興奮は今でも忘れられません。まさに3000年以上も前の品々をこの手で発掘するという醍醐味は、私にとって何にも代えがたいものです。これから古代エジプト時代に想いを馳せる時、このオペラが私の脳裏に浮かぶに違いありません。是非、このオペラをご覧になる皆さんも遥か昔のエジプト時代に自分をいざなって、楽しんでほしいと思います。

 

◆吉村作治◆プロフィール

吉村 作治(よしむらさくじ)

 

1943年東京生まれ。エジプト考古学者。現職は東日本国際大学学長・教授、早稲田大学名誉教授、工学博士(早大)

1966年、アジア初のエジプト調査隊を組織し、以来半世紀にわたり発掘調査を継続、数々の発見により国際的評価を得る。太陽の船復原プロジェクト、大ピラミッドスキャニング、クフ王墓探査計画など世界的注目を集めている。またeラーニングによる新しい教育システムの普及と日本の祭りのアーカイブに奮闘中。「太陽の船復活」「教授のお仕事」「イスラム教徒の頭の中」など著書多数。

公式HP吉村作治のエジプトピア:http://www.egypt.co.jp/

 

①写真:ツタンカーメンの黄金のマスク(出典:Wikimedia

    The golden death mask of the Tutankhamun at The Egyptian Museum in Cairo.

    🄫MykReeve

②写真:ネフェルティティの胸像(出典:Wikimedia

    Picture of the Nefertiti bust in Neues Museum, Berlin.

    🄫Philip Pikart

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