ジョルダーノ《アンドレア・シェニエ》みどころレポート

2026年2月27日 金曜日

 

音楽ジャーナリスト 石戸谷結子

 

 《アンドレア・シェニエ》は、フランス革命という激動の時代に、一瞬だけ花開いたロマンチックな悲恋物語。情熱がほとばしる激しいヴェリズモ・オペラ(真実主義と呼ばれるイタリア・オペラの形式)の最高傑作といわれるだけに、歌い手には重量級のスター歌手が必要だ。歴代の歌手をみても、日本オペラ史に残るイタリア・オペラ団の公演では、マリオ・デル・モナコとレナータ・テバルディという横綱級の大スターが共演し、話題になった。その後もルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラス、プラシド・ドミンゴの3大テノールが、シェニエ役を歌っているし、マリア・カラスもマッダレーナ役を得意にしていた。

 

 それだけに、今回のMETライブビューイングに主演するピョートル・ベチャワ(なんと、待ちに待った初役という)とソニア・ヨンチェヴァは、まさに歴史に残る円熟大スターの共演だ。二人の歌唱は情熱的で力強く、表現も深い。演技力にも定評のある二人だけに、幕が進むにつれて舞台は熱を帯び、手に汗握るドラマチックなシーンが展開する。熱愛の恋人の間に割り込む重要な男、ジェラールを歌うイーゴル・ゴロヴァテンコはロシア出身の美声バリトン。三人の実力派歌手の競演が見どころだ。

 

 ところで、アンドレア・シェニエとは何者か?1789年のフランス革命前後に活躍したロマンチックで官能的な作風で知られた実在の詩人。革命の初期にはその思想に共鳴していたシェニエだが、革命の中心人物ロベスピエールの恐怖政治を批判して逮捕され、31歳の若さで断頭台の露と消えた人物。オペラはその史実に、シェニエの詩に魅せられ恋をした伯爵令嬢マッダレーナという女性を創作して、情熱的な恋愛ドラマに仕立てている。長らくMETで愛され親しまれてきたニコラ・ジョエルの演出も見どころ。1996年にパヴァロッティの主演でプレミエ上演された、豪華絢爛で華やかな衣裳による重厚で伝統的な舞台だ。そして注目は、今シーズンからMETの首席指揮者に就任したダニエレ・ルスティオーニ。抒情性とドラマ性を兼ね備え、ニュアンス豊かな指揮で定評ある若きマエストロだ。

 

 この作品には聴きどころが多いが、なかでも聴き逃せないのが、1幕のシェニエのアリア〈ある日青空を眺めて〉、2幕の二重唱〈あなたは強い立場になられて〉。そして3幕では全幕最高の聴きどころアリアが2つ。ジェラールが歌う〈祖国の敵〉とマッダレーナの〈亡くなった母を〉が深い感動をもって歌われる。4幕では、死を覚悟したシェニエが歌う辞世の詩〈五月のある美しい日のように〉が感動的。最後は断頭台に向かう二人が歌うドラマチックな二重唱〈君のそばにいると〉で幕切れを迎える。この激しくも悲痛で甘美?な二重唱を聴いて、心臓が激しく鼓動しない人がいたなら、心拍数のチェックが必要です(と、METの元資料室長、ピーター・クラーク氏が言っています)。

METライブビューイング
2025-26
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