ベッリーニ《清教徒》みどころレポート

2026年3月19日 木曜日

コンサートソムリエ 朝岡聡

 

これはもう、観客がノックアウトされること間違いない舞台だ!

《清教徒》は演奏至難のオペラゆえに、もともと上演機会は多くないが、役者が揃った時の感動は格別なのですよ。しかも今回の主要歌手の完成度の高さは、間違いなく世界一。

 まずはエルヴィーラ役のL・オロペーサ。彼女の役柄設定は、自由と自己表現を求める画家。日頃から抑圧された日常に生きる女性だ。愛するアルトゥーロと巡り合ったものの、その喜びは続かず、状況に翻弄されてゆく…。1幕と3幕に悲嘆や絶望を背景に尋常ならざる心理状態を歌う「狂乱の場」があって、オロペーサのベルカント歌手としての秀逸さに改めて唸らされる。ベッリーニ特有の長い旋律フレーズに、たっぷりと情感を注ぎこみつつ様々な装飾を散りばめて歌い上げる姿は、その迫真の演技と相まって観る者の魂を揺さぶる。指揮のM・アルミリアート曰く「このオペラの歌には、スーパースターが必要」。オロペーサこそ、その人なのを納得できる。

 

 そしてもう一人はアルトゥーロ役のL・ブラウンリー。その超人的歌唱にも陶然となること請け合い!彼は、METでは今シーズン《連隊の娘》《夢遊病の女》に続きベルカント・オペラ3作目の登場なのだが、《清教徒》3幕では、テノールの高音域シンボルのハイCを超えるハイDやハイFまで見事にクリアしている。初演時にアルトゥーロを歌った伝説のテノール歌手ジョヴァンニ・バティスタ・ルビーニ(1794~1854)もかくありなん…という驚異の熱唱をぜひ体感していただきたい。

 加えて、脇を固める2人の低音歌手が聴きごたえ十分の歌唱を披露する。アルトゥーロの恋敵、リッカルドを歌うバリトンのR・J・リベラ(この人、俳優の阿部寛にソックリ)は、この公演の日の朝10時に急遽代役として呼び出されたというのに、歌も芝居も完璧!METのカバーキャストの層の厚さに感じ入ってしまう。エルヴィーラの叔父を歌う偉丈夫のバスバリトンC・V・ホーンと共に歌う2幕最後の二重唱「ラッパを吹き鳴らせ」の格調高い勇壮さなんぞ、男同士のベルカントの面目躍如。実に痺れます。

 最後にもう一言。演出のC・エドワーズは今回《清教徒》50年ぶりの新演出を担ったが、そのセンスは抜群。従来から唐突と言われたハッピーエンドの幕切れを実に説得力ある悲劇的結末に仕立てている。

それを含めて、新たなベルカント黄金時代の「今」を実感できる秀逸なる舞台だ。

METライブビューイング
2025-26
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