【来日インタビュー】METが誇る至高の歌声ローレンス・ブラウンリー《清教徒》
今シーズン第5作目となるベッリーニ《清教徒》が3月27日(金)~4月2日(木)まで〈東劇のみ4/9(木)までの2週上映〉全国公開となります。そしてこの度《清教徒》の公開を記念して、本作でアルトゥーロ役を務め、新国立劇場の《リゴレット》出演のため来日中だったローレンス・ブラウンリー氏の取材を行いました!
【《清教徒》ローレンス・ブラウンリー 来日インタビュー】
インタビュー/音楽評論家 加藤浩子
“私たちはこのオペラに生命を吹き込む。これは仕事ではありません”
ローレンス・ブラウンリーは特別なベルカントテノールだ。驚異的な高音域と敏捷性を保ちつつ、その声は柔らかく温かく、聴いていてとても心地いい。2006年、新国立劇場で《セビリアの理髪師》のアルマヴィーヴァ伯爵を歌って客席を熱狂させて以来、日本でもお馴染みだ。M E Tライブビューイングにも度々出演しており、3月27日から公開されるベッリーニの《清教徒》では難役のアルトゥーロを歌い、テノールの最高音であるハイFを堂々と響かせて満場の喝采をさらった。新国立劇場の《リゴレット》に出演するために来日中のブラウンリーに話を聞いた。
――20年以上第一線で活躍され、《セビリアの理髪師》のアルマヴィーヴァ伯爵のような持ち役をいつも完璧に歌われているのは素晴らしいと思います。この20年で変わられた点はありますか?
そうですね。20年の間に確かに大きな変化がありました。声が熟成しましたし、より賢く声を使うようになりました。喜劇の演じ方も変わりましたし、人間として、アーティストとしても熟してきたと思います。声を保ってこられたのは、先生の教えのおかげだと思っています。昔から、自分の声に合わない役を歌ってはいけないと言われていました。 最初の声楽の先生は、一度声の響きを失ってしまったら二度と取り戻すことはできないとおっしゃっていました。自然に歌えなければ声を維持できないと思うので、ヒロイックな大きな声は出しません。ステージで自分がどういう声を出しているのか、歌手としてどういう声なのかということをいつも意識しながら歌っています。何を歌いたいかではなく、自分に合った役を歌うべきだと思っています。

(c)Ken Howard/Metropolitan Opera
―――2006年の日本デビュー、2007年のメトロポリタンオペラデビューも《セヴィリアの理髪師》の伯爵でした。役柄と音楽の魅力を教えてください。
《セヴィリアの理髪師》は、私の人生においてとても重要な作品です。日本やメトロポリタンオペラだけではなく、スカラ座やベルリン国立歌劇場にもこの役でデビューしました。この役をたくさん歌ったおかげで、ロッシーニの音楽がよくわかるようになりました。彼の音楽は自分の声に非常に合っていると思います。音域が高く、柔軟性も必要で、高音を保たなければいけない。頭も使います。柔軟性、即興性、そしていろいろなニュアンスといったようなことを考えて歌っています。長年ロッシーニを歌ってきたので、いいロッシーニ歌手になれたと思っています。
――先日はメトロポリタンオペラで、ベッリーニの《清教徒》のアルトゥーロを歌われましたが、ベッリーニもロッシーニと同じく「ベルカント」の作曲家だとされています。両者の違いはどこにあるのでしょうか?
ロッシーニは、軽いというイメージがありますね。高くて、細かく、速い部分がとても多い。ベッリーニの場合、高音域の速い音は少なくて、長い旋律線と高い声域を維持することが大事です。高くてパワフルでなければいけない。レガートやフレージング、彼特有の長い旋律というものを考える必要があるのです。
今回日本で、私にとって初めてのヴェルディ・オペラである《リゴレット》を歌います。非常に興味深いのは、この作品にはロッシーニとベッリーニ、両方の要素があることです。第1幕のアリア「あれか、これか」の最初のフレーズはほとんど歌えないぐらい速く、ロッシーニを彷彿とさせます。一方で第2幕のアリア「ほおの涙は」は旋律が長く、ベッリーニと同じようなレガートの使い方をしていると感じます。

(c)Ken Howard/Metropolitan Opera
――ベッリーニ特有の長い旋律を歌うのは、とても難しいのではないでしょうか。
難しいと言えばそうです。効率よく歌わなければいけない。たとえば第1幕のエルヴィーラとの二重唱「愛しいあなた」では、2回ハイDを歌わなければなりません。その後もハイCやCシャープ、D音が続いて、最後はハイDesに到達します。そこまで長い旋律を保たなければならないのが、アルトゥーロ役の難しさです。
アルトゥーロはたくさん歌っています。多分私の声は、《清教徒》の初演でアルトゥーロを歌ったルビーニに似ているのではないかと感じています。ルビーニは、高音から低音まで満遍なくハリのある声で歌えたと言われており、近代テノールの元祖の一人です。
――第3幕の四重唱「信じて、哀れな人」では、テノールの最高音であるハイFを出されていましたね。
この役を歌うときには、一つ小さめの靴を履かないと声が出ないなんて言われますね。冗談ですが。笑。確かにF音を歌える歌手は少ないです。とはいえ、ここは魂が助けを求めて叫んでいる場面なので、決して綺麗な音ではないし、綺麗な音であるべきではないと思っています。初めてこの音を歌ったのが2008年だったのですが、その時指揮をしたエドゥアルト・ミューラーさんに「ハイFが出るのならやるべきだ」と言われたので、この音を歌い始めました。
お客様は劇場に非日常を求めます。ハイFなど、普段聴ける音ではありません。お客様は、そういう変わったものを聴きたいと思うのではないでしょうか。

(c)Ken Howard/Metropolitan Opera
――エルヴィーラ役のリセット・オロペーサさんとはよく共演していらっしゃいますね。
リセットは長年の良い友人で、お互いに芸術家としてリスペクトしている存在です。自分が心から愛して尊敬している同僚とステージに立てると、歌うことがとっても楽になるのです。
――チャールズ・エドワーズさんの演出についてはいかがでしょう。
とても良いと思います。彼は、普段この作品を演出する時に失われがちなストーリーを明確にするため、ほんのちょっとしか出番がないエンリケッタ王妃の存在を前面に出し、彼女と他の人たちとの関係性にスポットを当てました。台本ですと王妃の出番は本当に短くて、なぜちょっとしか出てこない人間に人々が命を賭けるかが理解しがたいかもしれません。彼女がどういう存在か示すことで、劇中に出てくる人たちにとっての彼女の重要性がわかると思います。エルヴィーラは王妃と母娘のような深い関係にあり、それもあって狂乱していくのです。
王党派と議会派(注:プロテスタントの一派である清教徒が多い)は最初は衣装が違って、つまり両派の対立を象徴しているのですが、物語が進むにつれて融合していきます。物語を語るのは私たちの責任でもあり、私は歌手としてそして俳優としてそういうものを全部背負って舞台に立っていたので、とても楽しかったです。
――ライブビューイングを見にくる方へのメッセージをいただけますか?
《清教徒》を見に来てくださるのはとても嬉しいです。私たち皆、「みなさんのために歌いたい」という気持ちでいっぱいです。本当のベルカントというものを聴いていただきたい。 私たちは、このオペラに生命を吹き込む。それは仕事ではありません。皆様に自分のベストを聴いていただきたい、その姿をぜひ見に来てください。
ベッリーニ《清教徒》は3月27日(金)~4月2日(木)まで全国の映画館で上映!ぜひお見逃しなく!
※東劇のみ4/9(木)までの2週上映
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