映画・アニメの世界

【作品データベース】この天の虹 このてんのにじ

作品情報

INTRODUCTION
上映時間・106分
八幡製鉄所(現・日本製鉄)の社宅に住む人々の愛を、オールスター・キャストで追っていく群像ドラマ。本作が製作された1958年はまさに日本が高度経済成長期に突入しようとしていた時期で、環境汚染の懸念もなかった当時において、工場から立ち上がる七色の煙は明るい未来の象徴とされていた。ただし、自作で常に雲の動きにこだわり続ける木下惠介監督は、大空を舞う煙に美を見出しつつも、「あの煙は本当に天の虹なのか?」と製鉄所の巨大機構におののきながちな須田(川津祐介/これがデビュー作)を通して、「人間は機械やシステムに呑み込まれてはいけない」というメッセージを盛り込むことも忘れていない。当時の日本人の力強い姿がリアルに描出されている。

STORY
北九州の一角、東洋最大の八幡製鉄所では、今日も鉄と人間が火花を散らして戦っている。縦横に走る構内鉄道、その運輸部ポイント返しの若い作業員須田菊夫(川津祐介)は、熔鉱炉の組長影山(笠智衆)、フミ(田中絹代)夫婦の社員アパートに下宿している。ある日、影山の一人息子稔(小坂一也)が帰って来た。稔はかって優秀な学生であったが八幡製鉄所の体格規定に外れて、入社出来ず、それ以来ヤケになり会社をやめて家に帰って来たのだ。菊夫が兄の如く慕う熔炉工場の捧心相良(高橋貞二)は、親和会でフト知り合った女性に心を惹れていた。厚板工場の伍長帯田の娘で、秘書課の事務員千恵(久我美子)である。相良は田舎から母を呼び、影山を仲介にして帯田家に交渉してもらった。帯田家では妻のたつ江(岡村文子)が、作業員は夫(織田政雄)と息子で沢山だと反対した。息子の京一郎(大木実)はストリップ工場の作業員で、病院の看護婦平野八重子(伊藤弘子)という恋人がいた。京一郎は相良に好意をもっていた。しかし千恵にも建築技師の町村(田村高廣)という恋人がいた。彼は八重子の叔父で渉外課勤務の前川(須賀不二男)の家に下宿していた。前川の妻久子(小林トシ子)もいつしか町村に想いを寄せていた。菊夫は製鉄所の音楽会に来た町村と千恵の睦じい様子をみて不安だった。その頃、影山の家に千恵の母が相良との縁談を断りに来た。相良は失望し、それを聞いた菊夫は自分のことのように憤然として、たつ江に談判しに出かけた。たつ江は娘を作業員にはやれぬと一蹴した。翌日、千恵は町村のブラジル派遣と久子との仲が怪しいという噂を聞いた。同じ頃、町村は上司の園部部長から姪の博子との見合を頼まれた。怪我をした京一郎を見舞った帰り、千恵は酔った菊夫と会った。菊夫は相良が作業員だから断ったのかと彼女に詰問した。二人は相良を加えて話をすることにした。その夜、稔は両親の温い眼に見守られながら、再び家を出た。相良は菊夫に千恵と会うようにすすめたが断った。仕方なく菊夫は一人で千恵に会った。千恵は決して相良を作業員だから断ったのではなく、すでに町村という人がいたからだ、と真意を話した。菊夫は千恵の本心を聞き、なにか心が軽くなり、二人で製鉄所をみおろせる高炉台公園に行った。ある日、菊夫は列車から飛び降りそこなって怪我をした。彼の熱意は相良を千恵に会わせた。千恵は相良の人柄を今さらながら見直した。しかし町村からの求婚でブラジルに行く決心をした。高炉台公園で立昇る虹のような製鉄所の煙をみながら相良と千恵はお互の幸福を祈るのであった。

キャスト・スタッフ

- キャスト -
高橋貞二
久我美子
大木実
田村高廣
川津祐介
田中絹代
笠智衆
- スタッフ -
監督:木下惠介
脚本:木下惠介
撮影:楠田浩之
音楽:木下忠司

配給:松竹
©1958松竹株式会社

ジャンル:現代劇