映画・アニメの世界

【作品データベース】海燕ジョーの奇跡 うみつばめじょーのきせき

作品情報

INTRODUCTION
上映時間・133分
赤い夕陽が映えて燃え上がるような東シナ海を、男のロマンが駆けぬける。追いつめられ閉ざされた青春が、脱出口を求めて、いま翔ぶ。海燕ジョーの痛烈な<反逆>パワーは熱い衝撃を巻き起こすだろう。親友の復讐に暴力団の首領を射殺。沖縄の青年ヤクザ、ジョーは島から島へ転々と逃亡し、数奇な運命に弄ばれるようにして、実の父親が生きているというマニラに辿り着く。恋人陽子も沖縄から彼を追ってやってきた。束の間、ジョーは幸福を手に入れたかのように見えたが……。海面すれすれに飛ぶ海燕は、海鳥の中では最も小さく、すばしっこい。英名ではペトレル。昔、聖人ピーターが、海の上を歩いた奇跡になぞらえて、そう呼ぶ。沖縄からフィリピンへ、日本とフィリピンの混血児である小さな海鳥=海燕ジョーも、単身海を渡る。いつの時代でも、目的を失った若者たちは刹那的な情熱に生命を散らす。1930年代アメリカの経済恐慌が『俺たちに明日はない』のボニー&クライドを生んだように、80年代日本の価値観の混乱は、『海燕ジョーの奇跡』のジョーと陽子を生んだ。車を盗み、銀行を襲い、町から町を放浪し、警官隊に銃弾を射ちこまれハチの巣のようになって死んだアメリカの若者たちは、大人の社会に背を向けて徹底して自分たちのルールを貫こうとした。何物にもとらわれず自由であること。ジョーも持てる情熱のすべてを注ぎこんで、激しく翔ぼうとする。その情熱こそがジョーの存在の証しだ。ラスト、ショッキングな結末には、まぎれもなく84年版ボニー&クライドの鮮烈なイメージが垣間見えるかもしれない。「復讐するは我にあり」で知られる直木賞作家佐木隆三が、昭和54年に発表した原作は、沖縄で実際に起きた事件を徹底的に取材し構成したものである。法の外に生きる男たちのダイナミックな暴力を背景に、海燕ジョーと仇名された主人公の青春を描いた傑作であり、その映画化は何度か企画されながら、背景のスケールの大きさに断念されてきた。「八月の濡れた砂」「スローなブギにしてくれ」で危険な青春群像を描き、若者に圧倒的な支持を得た鬼才・藤田敏八監督が、かつて手がけた日活ニュー・アクションの経験を基に、新たな青春ハードボイルドの世界を展開しようと、この『海燕ジョーの奇跡』に挑戦する。脚本は『野獣刑事』の神波史男、『スローなブギにしてくれ』の内田栄一、そして藤田監督が共同執筆原作世界を大胆に脚色化。映画ならではの見せ場を盛りあげる。『太陽を盗んだ男』『ボクサー』の撮影を担当した名手・鈴木達夫、『魚群の群れ』の照明・熊谷秀夫、『積木くずし』の美術・望月正照、『居酒屋兆治』の録音・紅谷愃一など日本映画を代表する第一線の技術陣が顔を揃えており見逃せない。音楽も『駅・STATION』『ダブルベッド』で日本の映画音楽に進境地をひらいた宇崎竜童が参加、テーマ曲をアン・ベルトゥッチが歌う。そして、『俺っちのウエディング』『地平線』で、群を抜く伸びやかな好演を見せてくれた若手スター時任三郎が、日本映画界には久々のスケールの大きいアウトロー・ヒーロー、海燕ジョーを演じ、爽やかな魅力で売れっ子となった『地平線』の藤谷美和子が、ジョーの恋人陽子に扮して、大胆な演技に挑戦することも期待されている。ジョーを助ける活動家くずれ、上勢頭朝真に、ひとクセある個性派、田中邦衛が、フィリピンの顔役・与那嶺悟に、藤田敏八作品の常連であり、最近では『卍』の快演も記憶に新しい原田芳雄、マニラでジョーの前に出没する謎の男沢井に異色・清水健太郎。加えて、国際スター・三船敏郎など、バラエティに富んだ演技陣が、沖縄→台湾→マニラと続くジョーの飛翔を彩る。撮影は12月15日から83年一杯を沖縄で、84年1月から2月中旬までマニラで、それぞれロケが行われ、2月下旬から3月中旬までにセットでクランク・アップ。84年ゴールデンウイークの期待作としてロードショー公開される。マニラ・ロケでは、貧民街のトンド地区、刑務所内、麻薬密輸ルート“マニラ・コネクション”のアジトであるシゲシゲスプートニックなど、日本映画として初めてカメラが入る危険地帯での撮影が予定されている。

STORY
すべてはジョーのあの一発から始まった。38口径S&W回転弾倉式の拳銃を構え、クラブ・エデンで、ジョーが琉球連合理事長金城盛光を射殺した時から……。三年前に、沖縄中のヤクザが大同団結して、琉球連合を結成した。準構成員を含め千三百人のその連合から、ジョーが所属する島袋一家がなぜ破門され脱退し、警察署長立会いのもとに解散声明を出したのか。ジョーのような“兵隊”にはわからない。ただジョーは、小さい頃からの幼なじみである弟分の与那城寛敏が、酔ったあげくの喧嘩がもとで、琉球連合那覇派の連中にリンチされ射殺されたことが許せなかったのだ。一触即発だった事態は爆発した。島袋組の幹部たちは姿をくらまし、ジョーは大胆にも警察の前に車を乗りすてて、安ホテルに身を隠した。恋人の陽子が、米軍の野戦服を着て変装し、ジョーの逃亡を助けに来た。陽子は、与那国島の生まれであり、ジョーの兄貴分島袋長幸の情婦ミッチーが経営するスナックのホステスをしていた。実家には警察や琉球連合の追手が立寄っていた。こっそりと金を渡しに帰ったジョーは、母ウタから、フィリピンにいる実の父親が十年前に送ってきたエア・メールを渡される。「ジョー、あんた、フィリピンに逃げなさい。そうするといいと思うさ。半分はお前の国さ。遠慮することないひゃあ」ジョーは日本とフィリピンの混血児だった。逃亡生活を続けるジョーの前に、かつて刑務所で知合いになった上勢頭朝真が現れた。上勢頭は、沖縄が本土に復帰する以前には公安事件の被疑者だったが、今は廃品回収屋をしている。上勢頭の世話で何人もの人間が、海外への密輸ルートを逃げていったと聞いたジョーは、フィリピンに脱出することを夢みるが、肝心の先立つ金がなかった。そんな時にジョーは、ミッチーから、島袋組の幹部だった亀千代が琉球連合に寝返ったことを聞かされた。ジョーの目が光る。翌日の深夜、拳銃を構えたジョーは、亀千代が経営する金融事務所を襲った。手榴弾で脅して金をまきあげたジョーは、その金でフィリピンに渡ることを決意する。四面が海の沖縄からフィリピンへ、本島南西部(糸満の南)の海岸から、上勢頭や陽子に見送られて、ジョーはフィリピンをめざす。国籍や国境を越えて、海燕のように素速く、父の国フィリピンへ。サバニや台湾の漁船を乗りつぎ、何日もかけてジョーは海の旅を続けた。それは夢のような幻のような旅だった。陽子の故郷である与那国島のお婆ァは、ジョーに唄うような口ぶりで、こう語りかけた。「西へ行けば台湾、南へ下ればフィリピン。銭次第、金次第、心次第、すぐでございます。人はみな、南からやって来たと申します。地の果て、海の果てには楽園もありましょう」輝く海を越えてジョーは、フィリピンに上陸し、マニラホテルで暗黒街に顔の広い与那嶺悟に出合った。与那嶺の仕事を手伝いながら、ジョーは父の行方を探すが、消息はわからない。マニラでの生活に溶けこんだジョーは、与那嶺の勧めもあって、父の名前ロペスを名のる。そんなある日、陽子がマニラにやってきた。再会。前にも増して、ジョーと陽子は深く愛しあうようになる。ひょんなことから、ジョーは父の旧友である食堂の女将ヤス子に出会う。ジョーはヤス子から、ロペスが山師であり、ハッパで片腕をもぎとられて、貧民街のトンド地区に落ちぶれて暮らしていることを知らされる。東洋一の壮大なスラム――トンド。そこでジョーは年老いた父ロペスに会うが、そんな父を前にジョーは自分が息子であることを言い出せずに別れてゆく。その頃からジョーの身辺に奇妙な人物が出没しはじめた。フリーライターの沢井一郎。ジョーのことを記事にして、特ダネにしようと目論む男。沢井とジョー、陽子、与那嶺との間に不思議な緊張が漂う。そして、島袋長幸がマニラにやってきた。琉球連合の殺し屋たちに尾行されていることも気づかずに――。彼らは牙をむき出しにして、容赦なくジョーたちに襲いかかってきた。

キャスト・スタッフ

- キャスト -
時任三郎
藤谷美和子
清水健太郎
正司歌江
原泉
田中邦衛
加藤嘉
内藤武敏
鈴木瑞穂
五月みどり
原田芳雄
三船敏郎
- スタッフ -
原作:佐木隆三
監督:藤田敏八
脚本:神波史男
脚本:内田栄一
脚本:藤田敏八
撮影:鈴木達夫
音楽:宇崎竜童

配給:松竹富士
©1984 三船プロダクション/松竹株式会社

ジャンル:現代劇