トニー賞受賞 気鋭の演出家 マイケル・メイヤー氏《椿姫》NY現地インタビュー!

2019年1月31日 木曜日

今シーズン第5作目となるヴェルディ《椿姫》新演出が2月8日(金)~14日(木)まで〈東劇のみ2/21(木)までの2週上映〉全国公開となります。そしてこの度、《椿姫》の公開を記念して演出家マイケル・メイヤー氏の現地取材を行いました!

 

【マイケル・メイヤー 現地NYインタビュー】

“オペラの伝統がなければ、ミュージカルは存在しない”

 

演出家のマイケル・メイヤーにとってこの秋は、オペラの秋だった。自らオペラ化のアイディアを作曲家ニコ・ミューリーに持ちかけ、5年越しでメトロポリタン・オペラ初演が実現した《マーニー》から息をつく暇もなく、12月にはヴェルディ《椿姫》MET新制作の初日を迎えた。2013年秋にMETが新制作した《リゴレット》の演出でオペラを初めて演出したメイヤーにとって、今回の《椿姫》は2作目のヴェルディにあたる。

1983年、俳優としてニューヨーク大学の大学院プログラムを修了し、ニューヨークのシアターシーンに乗り出した頃、メイヤーは今の自分を想像することができただろうか?2007年にロック・ミュージカル《春のめざめ》で演出家としてトニー賞を受賞したときでさえ、ヴェルディの傑作オペラを続けて2本、クラシックの牙城METで演出することになるとは思っていなかったに違いない。

 

《リゴレット》では16世紀のイタリアのマントヴァから1960年代のラスべガスに舞台設定を移して多くの支持者を掴み、そして同じくらい多くの敵を作り出したに違いないメイヤーは、今回の《椿姫》では打って変わり、ヴェルディが作曲した時代である19世紀のパリという、ごく一般的な舞台設定を選択した。

 

「今回は、これまでMETで上演されていた、モダンで少しディコンストラクトされた(脱構築的なところのある)ヴィリー・デッカーのプロダクションの後に続くものであることを承知していました。今回ヴィオレッタを歌ったディアナ・ダムラウがこの演出でヴィオレッタを初めて歌った時に、私も観ましたが、とても素晴らしい演出でした。しかし今回私が演出するにあたって、同じように現代的なプロダクションを繰り返すことは観客の益にならないと思いました。私はオペラのエキスパートではありませんが、《椿姫》は傑作のひとつだと思います。そういう傑作を新鮮かつ意味あるものに保つには、作品として異なる解釈が生きられるようにするべきだと思います。芝居であろうが、ミュージカルであろうが、オペラであろうが、原作者のインパルスだと私が理解するものに、常に忠実でありたいと思っています。」

 

「今回の《椿姫》は、ロマンティックで、よりビジュアルが豊かなものにしたいと考えました。そしてその美は、自然から得られるのではと考えました。ヴィオレッタのアルフレードとの愛を辿ると、4つの章になる。プロローグは冬で、結末がどのようになるかがそこに見られるかもしれない。その間が春、夏、秋になると。人生のフラッシュバックを、四季を通じて辿るわけです。装置のクリスティーン・ジョーンズと、死の直前のエクスタシーについて語り合いました。ヴェルディはそれを、非常に美しく描いています。オペラ全体をフラッシュバックとして語るのは、コンセプトとして新しくないかもしれませんが、四季を通じて描けば、ヴィオレッタのドリームをもう少しリアリスティックに展開できると思ったのです。それに前のプロダクションはモダンでしたので、今回はヴェルディ作曲当時の現代であった19世紀パリに舞台を設定しようと思いました。舞台の中央に常にベッドを置くことは、テクニカルリハーサルの時に思いつきました。生まれてから、高級娼婦として生き、死ぬまで全てベッドが人生の真ん中にある。それなら、舞台からベッドを片付けずに常に置いてみようということになったのです。」

 

初めて知る純粋な愛に心を震わすヒロインの高級娼婦、ヴィオレッタを今回歌ったディアナ・ダムラウとは、《リゴレット》に続いて2回目のコラボレーションとなる。

 

「私は彼女から非常に多くのことを学びました。彼女の演技は非常に素晴らしいので、歌が演技の自然な延長のように感じられます。彼女はすでにいろいろなところでヴィオレッタを歌っていますが、そんな彼女と新しい解釈に取り組むことはとても楽しいことでした。今回のヴィオレッタは、自分の運命を常に意識していると思います。そこに私はとても心動かされました。」

 

ヴィオレッタを真正面から愛する青年、アルフレードには、この役に今回初めて取り組んだフアン・ディエゴ・フローレスがキャストされた。フローレスは、ロッシーニやベッリーニ、ドニゼッティといった作曲家たちによるベルカント・オペラの難曲を華麗に歌い上げる、現在最高のベルカント・テノールである。

 

「ベルカントのテノール役の多くは、ちょっと自己中心的な役が多いと思うのですが、アルフレードはヴィオレッタという女性を遠くから眺め続け、彼女に会う機会を心待ちにするナイーブさがある。だからこの役を若く純粋なキャラクターにしたいと思いました。フアン・ディエゴはこの解釈に、とてもオープンに取り組んでくれました。」

 

「指揮のヤニック・ネゼ=セガンは、ストーリーにとても関心があるので、音楽がどの部分でストーリーに対してどんな影響を与えるかについて、真の対話を持つことができます。歌手との信頼関係も素晴らしい。彼との仕事は、とても楽しいものでした。」

 

前回の演出の《椿姫》は休憩が1回だけだったが、今回は歌手の負担を考慮するネゼ=セガンが主張して2回に増やされた。

 

「正直言うと、休憩を入れるのが私だったら、第2幕第1場の後を選んだと思います。しかしヤニックは、歌手のために第3幕の前に休憩が必要と考えました。それは私にとって妥協かもしれませんが、それほど気にしていません。ミュージカルだったら、演出家として私の仕事は、クリエーションに関わるチームメンバーの全てが同じ考えで確実に作品に取り

組めるようにすることだと考えています。音楽から振付、衣装、照明、全ては演出家に責任があります。しかしオペラは、音楽のサウンドが最も重要な要素なのです。だから指揮者が最終的な決断を下し、全ては音楽との関係において解決されなくてはならないのです。音楽を自分の演出に合うように変えることは、許されない。それがオペラです。ストーリーはステージングやリブレット(台本)に存在するのと同じように、オペラの場合、音楽にあるものだと信じています。私はヤニックのように、ストーリーに関心がある指揮者と取り組むことができて、とてもラッキーだと感じています。」

 

演劇の世界からオペラに踏み込んだメイヤーだが、演劇ファンにもオペラを積極的に見て欲しいという。

 

「オペラの伝統がなければ、ミュージカルは存在しないんですよ。パティ・ルポンやクリスティン・チェノウェス、バーバラ・ストライサンドの歌に感動する人は、オペラの歌唱の素晴らしさに圧倒されると思います。それにディーヴァの元祖は、オペラ歌手ですからね。今回の《椿姫》には、歌手はもちろん、バレエにも素晴らしい才能が揃っています。この作品は、史上最も美しい音楽で最も素晴らしいストーリーを語っています。あなたの人生を変貌させるパワーを持つ、愛に対するラブレターなのです。ぜひご覧いただきたいと思います。」

 

ヴェルディは最高のオペラ作曲家というメイヤーだが、将来はベルクの《ヴォツェック》《ルル》といったアヴァンギャルドな作品、クルト・ヴァイル、ブリテン、ストラヴィンスキーといった作曲家の作品にも取り組んでみたいという。オペラ演出家として、いきなりオペラ界の頂点METから歩を踏み出したメイヤー。今後の活躍に、大いに期待したい。

 

(インタビュー/音楽ライター小林伸太郎)

写真(c) 小林伸太郎、Marty Sohl/Metropolitan Opera、Jonathan Tichler/Metropolitan Operaほか

 

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