ベルカントの二女王が魅せるイタリア・オペラの傑作!《ノルマ》新演出みどころ

2017年11月2日 木曜日

理想のキャスティングときめ細かな演出、作品の魅力を最大限に味あわせてくれる《ノルマ》

加藤浩子(音楽評論家)

 

ベッリーニの《ノルマ》は、イタリア・オペラを代表する名作のひとつだ。

ローマ帝国に支配されているガリア(現在のフランス)を舞台に、支配者側の将軍ポッリオーネと、支配されているガリアの巫女の長ノルマが禁断の恋に落ち、子供までもうける。

だがポッリオーネは若い巫女のアダルジーザに心を移し、ノルマの怒りをかう。。。

 

波乱万丈の三角関係が衝撃の結末を迎える劇的なストーリーは、ベッリーニの創作魂を揺さぶった。

《ノルマ》では、ベッリーニが得意とした息の長い美しい旋律と繊細で高度な歌唱技術に加え、オーケストラを含めた劇的な表現がそこここに聴かれる。ベッリーニのオペラのなかでも飛び抜けた人気を誇るのも、よくわかる。

 

人気が高い割にそれほど上演の機会がないのは、難易度が高いから。

高度な技巧と「歌」の美しさを追求した「ベルカント・オペラ」でありながら、人間的な感情がたっぷり盛り込まれた《ノルマ》では、歌手たちは、困難なテクニックを感情表現と結びつけなければならないのだ。

それができる歌手は数少ない。

今シーズンのMETのオープニングを飾った《ノルマ》は、本作が要求する

その高いハードルを見事にクリアし、作品の魅力を花開かせることに成功した、類い稀な公演だった。

 

成功の第一は、絶妙のキャスティングにある。

主役のS・ラドヴァノフスキーは、ヴェルディやプッチーニのような劇的なオペラからベルカント・オペラまでこなすオールマイティのソプラノだが、最近MET でドニゼッティの《女王三部作》に挑戦し、ベルカント・ソプラノとして大きく成長した。

きめ細やかな装飾と表情豊かな弱音は、「恋する女」ノルマを強調し、心揺さぶる人物にしていた。

 

アダルジーザを歌ったJ・ディドナートは、ベルカントの諸役をこなしてきた名メゾだが、最高のはまり役。

完璧なテクニックとよく伸びる澄んだ声は、ノルマに対するアダルジーザの「若さ」を映し出し、メゾらしい音色の深みは、ノルマとの二重唱で素晴らしい効果を発揮した。

 

ポッリオーネを歌ったJ・カレーヤも、豊かで開放的な美声を駆使して、直情的な色男を好演。光り輝く絨毯のように「歌」を包み込むベッリーニのオーケストレーションを堪能させてくれたC・リッツィの指揮にも、拍手を送りたい。

 

 

 

D・マクヴィカーの演出は、物語や人物の関係性をていねいに表現した、とてもわかりやすいもの。

ドルイド教徒が「神殿」とみなしていたという「森」が舞台を覆い、幽玄な雰囲気をかきたてる。

 

ノルマ役を、復讐に燃える猛女ではなく、恋する哀れな女に仕立てたのは画期的だ。

さらに説得力があったのは、アダルジーザの扱い。

ノルマを尊敬する「若い巫女」の立場が強調され、普通は現れないノルマの登場のアリアや全曲の幕切れでも姿を見せて、彼女への共感を全身で表現していた。

このような演出があると、アダルジーザがノルマとの「友情」のために恋を諦めるのも納得がゆく。

 

音楽も演出も美しく、説得力に満ちた《ノルマ》。NYで大成功を収めたのも当然と思える、充実のオープニング公演だった。