ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》みどころレポート
音楽評論 東条碩夫
2016年11月のライブビューイングで上映されたマリウシュ・トレリンスキ演出版以来久しぶりの、ユヴァル・シャロンによる新演出の《トリスタンとイゾルデ》が登場した。
最大の話題はイゾルデを歌うリーゼ・ダーヴィドセンである。意志の強さと、落ち着きと、美しさを兼ね備えた新時代のイゾルデ像と言えよう。そして、マイケル・スパイアーズが歌い演じるヒューマンなトリスタン、ライアン・スピード・グリーンの悲哀感にあふれたマルケ王、エカテリーナ・グバノヴァのベテランの味とも言うべきブランゲーネも素晴らしく、いつもの悪役イメージから脱したトマシュ・コニエチュニの知的であたたかい主人思いのクルヴェナールも魅力だ。音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンも、その明快な美しさに富んだ表現で、今やワーグナー指揮者として世界屈指の存在となった。
だが、ワグネリアンたちにとっては、ユヴァル・シャロンの演出と、エズ・デヴリンの美術などによる新しい舞台にいっそう心が奪われるのではないか。これはもう、心理描写に富んだ映像を多用した、精緻で、宏大で、幻想的な舞台である。
ステージは上下2段に分かれ、たとえばある時には、上段では生身の登場人物たちが生き、下段ではその内心の心理状態を描くパントマイムが展開する。第1幕など、船の中でトリスタンとイゾルデが顔を合わせる場面では、下段の「イゾルデ」が突きつける刃の映像が上段に写され、それがいつの間にか実際の舞台装置と合体し、2人はその刃の中で応酬し合う、といった具合だ。イゾルデが歌っている言葉と、内心の感情とが、同一舞台で別個に表現されるのである。ドラマが進むほどに、上段と下段の出来事は相互に映像で結び合されて行くが、両者はいつの間にか目まぐるしくすり替わり、逆転するので、その変化がまた面白い。シャロンの言う「神話的物語と現代的影の間の緊張感」「テーブルの世界と寓話の世界」が様々な視点から描き出されるというわけである。全曲にわたるこのシャロンの舞台づくりは、見事なものだ。
また、第2幕で使われる巨大な円型の装置は、休憩時間の特集で一部を見ることができるが、凄いものだ。愛の二重唱の場面での装置と人物たちの動き、照明の変化など、いつの間に?と驚くほど変幻自在で幻想味に満ち溢れていて、見ものである。これらについてのスタッフの話も面白い。
衝撃的なのは全曲の幕切れの光景だ。これは、他のある有名なオペラの結びを連想させるだろう。















