《ラ・ボエーム》見どころレポート

2018年3月23日 金曜日

相模女子大学メディア情報学科教授 田畑雅英

 

  METライブビューイングにゼフィレッリ演出の《ラ・ボエーム》が再び帰って来る。

 

《ラ・ボエーム》はプッチーニの評価を不動のものとした名作で、近年ではミュージカル「RENT」の原作となったことでも知られている。

 パリの屋根裏部屋で共同生活を営む四人の貧しい芸術家や学者たち。その一人、詩人のロドルフォは、クリスマス・イブにろうそくの火を借りに訪れたお針子のミミと恋に落ちる。しかしミミは不治の病に冒されていて、貧しさのために治療費も出せない自責の念から、ロドルフォはミミにかえってつらく当たるようになり、二人は別れてしまう。

春になり、いよいよ病いが重くなったミミはロドルフォと仲間のもとに戻るが、皆の願いもむなしく息絶える。胸が締めつけられるような悲恋物語であり、画家マルチェッロと気の多いムゼッタの恋愛もからむ青春の群像劇でもあるが、ただ甘美なだけではなく、自由を謳歌していた若者たちが過酷な現実に直面する物語であることも見逃さないでほしい。

 音楽もまた魅力的である。全四幕が四楽章の交響曲のように緊密に構成されているが、音楽が堅苦しくなることはまったくない。

第一幕で初めて出会ったロドルフォとミミが交わすアリア〈冷たい手を〉と〈私の名はミミ〉から愛の二重唱〈うるわしい乙女よ〉へとつながる流れは圧倒的にすばらしい。

第二幕のコケティッシュな中に真情が見え隠れする〈ムゼッタのワルツ〉、第三幕の、愛し合いながら別れようと決心するロドルフォとミミの哀切な二重唱〈あなたの愛の呼ぶ声に〉、そして終幕のミミの死に至るまで、全編にわたって聞きどころが連続し、その淀みない流れに身を委ねるだけで、初心者でもオペラの魅力を十分に感じ取ることができるだろうし、プッチーニの表現力豊かな音楽で描かれる恋人たちの哀しみと悲劇的なエンディングには涙が止まらないことだろう。

 

 ゼフィレッリの演出版は、1981年のプレミエ以来繰り返し上演が続けられている。19世紀のパリを見事に再現し、とりわけ第二幕でのカフェ・モミュスの二階建てのセットや群衆の生き生きした動きが目を奪うが、一転して第三幕の雪の舞う早朝の情景や、第一幕と第四幕の屋根裏部屋の生活感など、リアリズムに満ちた美術と細やかな演出の融合がすばらしく、現在でもまったく古びていない。オペラに限らず、舞台芸術に関心のある人なら一度は見ておきたい。

 

 

 

  

 清新な歌手陣にも期待が集まる。今や世界中の一流歌劇場から引っ張りだこのソニア・ヨンチェヴァは、先日の《トスカ》でも好評だったが、彼女の憂いを含んだ美声はミミという薄幸の役柄にぴったりで、期待に応える歌唱・演技を行っている。

ロドルフォ役のマイケル・ファビアーノはMETオーディションの受賞者で、2016-17シーズンの《椿姫》のアルフレード役でも絶賛された。ムゼッタ役のスザンナ・フィリップスは2013-14シーズンでも同役を歌ったが、持ち前のミルキーなチャーミングさはそのままに、深みを増した歌唱と役作りを披露している。
その他、新時代を担う歌手が結集した布陣は、オペラ界の今後を予想する楽しみも味わわせてくれるだろう。

©Ken Howard/Metropolitan Opera

 

 

(C)Marty Sohl/Metropolitan Opera