《セミラーミデ》みどころレポート

2018年4月6日 金曜日

コンサート・ソムリエ 朝岡 聡 

 

さすがMET!主要登場人物すべてに、特別高度な技巧と圧倒的な歌唱力が必要とされるが故に、世界中の劇場でも上演機会はごく稀な傑作を、現代最高の演奏陣を集めて25年ぶりの再演。その期待を裏切らない出来です。豪華な声の饗宴に酔いしれましょう。

古代バビロニアを舞台に、夫であった先王を殺し女王として君臨するセミラーミデが後継者を指名しようとする。先王殺しの共謀者アッスールやインド王イドレーノが王位継承をもくろむ中、彼女が指名したのは戦場から帰還した若き軍人アルサーチェ。秘かに恋心を抱く女王だが、実は彼は行方不明になっている前王との息子だった…。欲望と愛が錯綜しつつ物語は衝撃の結末へ。

 そのドラマを描くためにアリアや重唱に散りばめられた装飾歌唱を聴けば、「音楽界のナポレオン」として19世紀前半の全ヨーロッパを席巻したロッシーニの真髄を実感できます。歌手たちの歌いっぷりがとにかく素晴らしい。

 

 セミラーミデを歌うアンジェラ・ミードは女王の威厳と女心の繊細さの両方を超絶技巧を駆使して歌いきっています。まさにひれ伏したくなるような歌唱。アルサーチェ役のエリザベス・ドゥショングがまた凄い。いったい音符がいくつ連なっているのか?と思うような速いフレーズを驚異的な技術と正確な発声で描く様子は、もう神技。ロッシーニが好んだメゾ・ソプラノの青年役としての魅力に溢れています。各ソロに加え、この2人による二重唱も2曲ありますから乞うご期待!

 

 

 男性歌手ではハヴィエル・カマレナ。いまやフローレスと並ぶベルカント・テノールの雄と言うべき存在は、本作でも圧巻の輝ける歌声を披露しています。1幕の「ああ、試練はどこに」と2幕の「とても甘美な希望が」のアリアは、ともに叙情的な旋律で始まり技巧を凝らした情熱的歌唱でおわる至難の曲。前者ではハイCを超える声が響き渡り、ブラ~ヴォの嵐。いやぁ、もう最高です!ちなみに幕間インタビューでは、彼のこれまでのMETの舞台での高音歌唱ミニ特集もありますからお楽しみに。

 

 

 

 そして悪役アッスール役のイルダール・アブドラザコフも深みと艶のある声で抜群の存在感。亡霊を見て錯乱する2幕「ああ!やめろ…許してくれ」の場面では正気と狂気のはざまを揺れ動く表現に息を呑むことでしょう。

 こんなに素晴らしい歌手陣が繰り広げるソロや重唱に加え、指揮者マウリツィオ・ベニーニがロッシーニの愉悦をくっきりと浮かび上がらせ、重厚な合唱とともに絢爛豪華な音楽を構築しています。全員が参加する壮大な各幕フィナーレでそれをたっぷり味わえるはず。視覚的にもジョン・コプリーの演出の名舞台は実にゴージャス。まさにロッシーニ没後150年のメモリアルイヤーにふさわしい贅沢な公演。METだからこその魅力に浸ってください。

 

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