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照明 多賀正記

――これまでのご経歴を教えてください。

多賀 大学時代に観た、ミュージカル『オペラ座の怪人』がきっかけでした。当時は考古学を勉強したくて、文学部史学科に通っていたのですが、『オペラ座の怪人』を観終わった後、立ち上がることもできなくなるほどに衝撃を受けました。それからというものの、どうすればこの世界に入ることができるのか、と考えるようになりました。 

ある日雑誌を読んでいると、東京照明技術学院の募集要項を見つけ、専門学校に行けば働くきっかけができるかもしれない! と飛び込んだのが、照明の道を進む始まりでした。1年間基礎的なことを学んだ後、パシフィックアートセンター(PAC)に入社をしました。入社後、新橋演舞場に配属されしばらくPACの照明チーフとして働いていると、松竹の方に「うちで働いてみないか」と声をかけていただき、松竹の社員として働くようになりました。新橋演舞場一筋、気づけば27年です。でも、その27年間にも辞めたいと思うことは多々ありました。私の場合、入社してすぐに大道具さん主催のゴルフの会に加入させていただいたのですが、40歳過ぎまで後輩が入ってこず下っ端として雑用を担当しておりました。照明は様々なセクションの方との連携が求められるため、こういった日頃の付き合いがとても重要だと分かってはいたものの、当時感じていた大きなストレスの一因でした。仕事上で人間関係に悩み30歳代前半の頃は辞めることも考えました。やりがいを感じ始めたのは、照明プランを立てるようになった40歳代後半からでした。

――照明プランを立てられるようになるまでに、長い期間が必要となるのですね。 照明スタッフは何人体制で、それぞれのポジションでどのような役割をされているのか、 教えてください。

多賀 新橋演舞場には現在16人のスタッフがいます。初日が開けると、「引き継ぎ」といって、誰が休んでも大丈夫なように予備の人員も配置しています。引継ぎ期間が終わると、おおよそ9人で作業を行います。ただ、スーパー歌舞伎など専用のポジションが増える演目の場合だと、増員をかけて全体で20人体制になりますね。  照明の仕事を大きく分けると、「プランナー」(デザイナー)、「助手」、「センタースポット」、「調光」、「ステージ」の五つがあります。プランナーは照明のプランを立てて具現化する人、助手はプランナーの助手として側に付き、経験を積んでいきます。照明プランを立てるには、センスはもちろん、経験が問われます。助手として何年も経験を積み認められて、プランナーになれるのです。

センタースポットポジションは、舞台の上にいる人を照明で追いかける役割。調光ポジションは、プランナーが立てたプランを元にシステムに記憶させ、灯りを制御、調節します(オペレーター)。ステージポジションは、舞台転換の時に働くポジションです。一例を挙げると、転換になると廻り舞台が回ります。その時、表では芝居が続いていますが、裏では大道具さんが大道具をバラし、次の屋台を組み立てます。その度に照明も吊ったり外したりを繰り返します。表の芝居の時間が長いと余裕をもって作業ができますが、時間ギリギリのものになると、裏はもう「間に合った」、「間に合わない」の大戦争。『め組の喧嘩』はまさにその一つですね。通常の劇場だと若手はステージポジションから始まるのですが、うちではかなりの経験値が求められる仕事なので、ベテランが多く担当しています。

――本番までの準備期間はどのような仕事をされていらっしゃるのでしょうか。

多賀 前月の公演の中日(なかび)くらいになると次月の台本が配られ、美術家、装置家、大道具などが集まって「美術会議」が開かれます。次にその会議で決まった道具のイメージを具体的にどのように作っていくのか、どんな道具を発注するのか、正式に内容を決める「発注会議」が行われます。照明プランナーはこの発注会議から参加し、「こういう場面だから明るい照明にしよう」など照明のプランを組み立てていきます。と同時に、台本を読んで大まかなイメージを自分の中で膨らませていき、「仕込図」とよばれる舞台上の照明の位置などを書き込んだ図面を作ります。

また、稽古を見て台本に灯りの色味の変化のきっかけを意味する「CUE」を書き込んでいきます。照明は通し稽古を見て最終的な方向性が固まるため、初日ギリギリまで仕込図とCUE番号は定まりません。それらを元に、初日前の「道具調べ」という大道具や小道具などの道具周りの最終チェックを行います。プランナーは、道具調べ中に灯りを実際に作り、プランを確定させ初日を迎えます。

――照明の機材は演目によって異なるのでしょうか。

多賀   外部の照明プランナーが入る場合は、プランナーによって好きな機材も違ってくるため、公演ごとに搬入して仕込んでいます。新橋演舞場では特に、多様な演目を上演しているため、外部からいらっしゃることが多いですね。

つづく

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