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藤山扇治郎

――松竹新喜劇には昭和三十年代、四十年代に初演された作品が多いですよね。たとえば『夜明けのスモッグ』なども当時の現代劇だと思うのですが、それから数十年がたって背景が過去になっている。それが結果的に独特の雰囲気になっているような気がします。

藤山 劇団には江戸時代の庶民が出てくる時代劇と現代劇、大きく二つのタイプに分けられます。時代劇は現在とは全く違うのでいつの時代でもできると思うんです。一方で昭和三十年代、四十年代の作品というのは、今の方に見ていただくのは難しい部分があります。というのは、現代感覚の価値観が違ってきていると思うんです。三世代同居、孫、お母さん、おばあちゃんで住んでいる家庭も少なく、近所付き合いも少ない。結婚や子育てに関する感覚も違ってきています。
だから、昨年上演した『新・親バカ子バカ』はむかしの『親バカ子バカ』をベースにして設定を平成二十九年に書き換えているんです。単に背景を変えるだけではなくて、親子の感覚もいまの時代にしているんです。
もちろん、すべてを現代に置き換えるのがいいかというと、そうじゃないと思っています。
たとえば『Always三丁目の夕日』。あれは昭和三十年代、東京オリンピックのことを描いているけれども、あそこの中の人情というものは普遍的に変わらないじゃないですか。むしろ東京オリンピックのころを背景にする良さがあると思います。
現代劇で電話をかける場面。いまですとスマホを出さないわけにはいかないけれど、公衆電話だったり、ちょっと前のダイヤルを廻す電話の時の方が、人の結び付きとか流れというのがはっきりしますので、お芝居になりやすいという部分もあります。だから、やみくもに現代のいまに置き換えるのではなく、作品によっては昭和三十年、四十年の背景のままの方がよい場合も出てくると思います。

――劇団の若手として、今後、こんなことをやってみたいというアイデアは?

藤山若い方にも見てもらいたいです。今日は「若い人の日」みたいな上演をやったら面白いかなと思います。前に高校生が観に来てくれたときがあったんです。全然反応が違うんですよ。新喜劇の話って、自分が結婚したり、子供がいないと分からないことも多いと思うんですけれども、そういうものを外しても、若い方ってすごく素直に笑ってくれるんだな、と新鮮に感じました。あるいはこちらから学校を訪問してお芝居を観ていただくとか・・・。そんなことも出来ないかなと。
それから、夢ですが、いま生きている作家に平成の作品を書いて戴き、いまの時代をとらえた新作を上演してみたいです。
今年70周年を迎える松竹新喜劇は先輩達が昭和、平成とその時代に創意工夫を積み重ねて来られました。そのお蔭で多くの作品があるのが強みです。それに新作も共存できる素敵な劇団なんです。
私自身、教えて戴ける先輩達がたくさんいらっしゃることが幸せです。まだまだいろいろなことを学ばないといけないと、日々精進を心がけております。
今後とも松竹新喜劇をよろしくお願いいたします。

2018年1月17日公開

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#01#03

藤山扇治郎

父は小唄白扇流の家元。祖父は喜劇王と称された藤山寛美。伯母は藤山直美。幼い頃より日舞に接し、歌舞伎の舞台で名子役ぶりを発揮。祖父の追善興行の時にも、「桂春団治」の池田屋の丁稚を好演し、憎めない雰囲気を醸し出し、平成26年新橋演舞場「朗らかな嘘」で主演、平成29年「親バカ子バカ」などでも好演し、場内を爆笑させた。5月には大阪松竹座と新橋演舞場で『蘭~緒方洪庵と浪華の事件簿』に出演。現在、NHK連続テレビ小説『まんぷく』で主人公福子の仕事仲間、料理人野呂幸吉役で出演中。将来有望な喜劇俳優である。

インタビュー・文 和田尚久(わだなおひさ)

放送作家・文筆家。東京生まれ。 著書に『芸と噺と 落語を考えるヒント』(扶桑社)、『落語の聴き方 楽しみ方』(筑摩書房)など(松本尚久名義で上梓)担当番組は『立川談志の最後のラジオ』、 『歌舞伎座の快人』、『青山二丁目劇場』(以上、文化放送)、『友近の東京八景』、『釣堀にて』(以上、NHKラジオ第1)ほか。