#04

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波乃久里子

『明治一代女』

――新作の『犬神家の一族』に松子役でご出演をされていました。

波乃 これはもっと前から新派でやるべきだったと思います。原作を読んだらまるで歌舞伎なんですよ。浄瑠璃の音色が聞こえてくるような。でも、今回、新派文芸部の齋藤雅文さんが書いてくださった台本は、古曲が聞こえているようなタッチで、ちゃんと新派になっているんです。
面白いのは、原作にはありませんが、齋藤さんが考えて、泉鏡花の芝居が引用されていたりするんです。ですから新派を知っている見巧者の方が見ると、あ、これはここから持ってきたなというのが分かるんじゃないかと思います。
それから、この企画は(喜多村)緑郎さんが新派に入ってくださったからやれたような気がします。金田一耕助を誰がやるって考えたときに、これまでの新派だとぴったりとくる人がいなかった。ですから、緑郎さんを迎えることが出来た新派は運があると思っています。(2018年11月大阪松竹座と新橋演舞場にて上演)

――近年の新派は、劇団外の俳優さんと合同されることが多いですね。久里子さんは「新派らしさ」をどうお考えですか?

波乃 わたしは本来、「新派のカラー」ってものはないと思います。歴史的に見ても、新派というのはその時代、時代のいろいろな人が来たから、俳優座もあれば文学座から入ってきたり、種々雑多だから一色にしないでと(初代)水谷八重子先生はよくおっしゃっていた。ですから、水谷八重子の部屋には先生のやりかたがあったけど、それを全体に守らせようってことはなさいませんでした。
 水谷系もあれば花柳系のルールもある。わたしもそこで育ってきたから、いま、ひとつにしようとは思いません。たとえば河合さんが入ってみえたら河合さんのおうちのやり方もあれば、別の家もある。それがぶつかったら面白いんじゃないかなと思います。
 ですけど、一つ言えるのは「芸がなきゃだめ」ってこと。みんな芸があるでしょう。前に藤山直美さんと話していたら「お金がないのは恥ずかしくないけど芸がないのは恥ずかしい」って(笑)。怖い言葉だけど、それはそうですね。  芸というと難しく聞こえるかもしれないけれど、立ち居振る舞いひとつとっても、ピアノで育った子はだいたい新派には入ってこないでしょう。三味線とか、ある程度邦楽に親しんでないと新派に入ってこないですよね。わたしたちはだいたい、明治から昭和までを背景にした芝居をするから、「体に時代がある」ことが大事なんです。
 『犬神家の一族』に出てくださった佐藤B作さんには時代がある。「新派へ来てください、あなた半分新派よ」と言っているのに、自分も劇団(東京ヴォードヴィルショー)を持っているからそうはいかないと(笑)。

『明治一代女』

――久里子さんは歌舞伎の家に産まれて、歌舞伎と新派、どちらの方法もご存じですよね。両者を比較して、見えてくるものは。

波乃 歌舞伎というのはやっぱり「首が飛んでも動いてみせるわ」というような、うそができるじゃないですか。新派のほうは本当にリアルじゃないと。でも「リアル」だけでやるものでもありません。「抒情的リアリズム」とわたしは言うんですけれど、情緒がなくてはいけないし、リアリズムでもなくてはいけないと思います。その線を狙うのが新派の女優で、ですからわたしは女優といっても「新派女優」だと言ってます。
 歌舞伎に出てくる女性は、たとえば襖を開けて中の部屋を見るという芝居でも、動きが踊りになっています。新派の女方は、そこを踊らないで、ぐっとエネルギーだけでまっすぐに見るんです。そぎ落とした表現と言えばいいでしょうか。

――直線的な表現なのでしょうか。

波乃 新派の場合は「形(かたち)はあるけど型(かた)はない」とわたしは言っています。
 ですから、命掛けの斬り合いをする場面で、着物のすそは直してはいけない。でもきれいでなくてはいけない。これは難しいんです。
 それが一番の新派の理想じゃないでしょうか? 歌舞伎なら命乞いの場面で、すそを直しても成り立ちます。新派だとそれはおかしくて、でもすそがくちゃくちゃになっていたら嫌ですよね。八重子先生はそこで、くちゃくちゃになってないんですよ。そこが芸ですね。

――よほどの修練がある。

『遊女夕霧』

波乃 そのためには普段を磨くのが大事で、八重子先生は「いつも真っ白でいろ」って仰っていました。普段は女優になんて見えなくていい、石のお地蔵様かというぐらい、分からないようにしろと。そのかわり、舞台で女優になればいいんだからと。
 ですから私もその意見に賛成だし、キャンバスは白のままでいることをいまも心がけています。けれど、これは新派全体じゃない、八重子先生の教えですよ。先生はもともと新劇の女優だから。本当の意味で新派といったら花柳章太郎と大矢市次郎、それから英太郎。こういった方たちの系譜になるでしょうね。

つづく

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#03