《ポーギーとベス》みどころレポート

2020年3月26日 木曜日

音楽ライター 服部のり子

 

 《ポーギーとベス》がメトロポリタン歌劇場で上演されるのは30年ぶりだという。その数字が物語る出会いの喜び。演出や振付が刷新されての上演となった。

 

 この作品は、ジョージ・ガーシュウィンが作曲した唯一のオペラで、影響を受けたジャズやゴスペルなど黒人音楽の要素がふんだんに盛り込まれている。それを肉体で視覚化したのがC.A.ブラウンによる振付だ。オペラでいきなり振付の話をするのもおかしいが、感情を体で自由に表現し、魂を開放させるパフォーマンスは、黒人文化ならではのもの。数秒と短いが、第一幕の“サイコロを振れ!”と歌う男性アンサンブルの円を描くような体の動きは、音楽の気持ちいいグルーヴ感に反応したもので、黒人音楽の魅力を象徴する存在になっていると思う。

 

 さて、第一幕はクララが歌う名曲〈サマータイム〉で幕を開ける。濃厚な湿気が肌にまとわりつくようなブルース調の歌で、アメリカ南部の風景をイメージさせる。ジャズ界での人気が高い曲で、ブルージーな歌や演奏をよく耳にするが、ゴルダ・シュルツが美しいソプラノで歌うアリアこそがオリジナルだ。この子守唄は、歌い手を変えつつ、何度か登場するので、その聴き比べも楽しい。

 

 楽器編成も独特だ。ポーギー役のエリック・オーウェンズが温かみのあるバスバリトンで独唱する〈おれにはないものばかり〉の伴奏で、バンジョーの乾いた素朴な音色が響く。音楽のクロスオーヴァー化が進む今では当然違和感はないが、当時オペラに民俗楽器はどうかと批判されたのは理解できる。

 個人的に心奪われた歌が他にも3曲ある。ひとつは、夫の死を嘆くセリナの〈うちの人は逝ってしまった〉の胸に迫る熱唱。鳴り止まぬ拍手が臨場感を高めてくれる。

 

 ポーギーとベスの二重唱〈ベス、おまえはおれの女だ〉では2人の感情の進化が表現されていて、柔和になるベスの表情が印象的で、第一幕で彼女に恋するポーギーにヒヤヒヤした気持ちが癒される。また、クライマックスで歌われるポーギーとセリナ、マリアの対話を重ね合わせる三重唱〈おれのベスはどこだ〉の歌唱力に圧倒されると同時に、ガーシュウインのブロードウェイでヒットしたミュージカルにはなかった、野心的な音楽の挑戦がクライマックスを盛り上げる。もし、彼が元気で、次作を作ったとしたら、どんなオペラになったかと、期待感をあおる三重唱でもある。

 

 最後に案内人のオードラ・マクドナルドは、2011年にブロードウェイで上演された《ポーギーとベス》でトニー賞に輝いた女優。それが選ばれた理由だと思うが、日本でも人気のTVドラマに出演していて、彼女に抱く親近感が作品との距離を一気に縮めてくれる。それがまたうれしい。

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