映画・アニメの世界

vol.3 音楽プロデューサー

作品の魅力引き出す映画音楽
音楽プロデューサー 高石真美

作品に彩りを与え、時に観ている者の心震わせる映画音楽。ふとメロディーを耳にするだけで、胸が切なくなったり、ときめきに満ち溢れたり…。ドラマを生み出す、その一音一音にかける仕事があります。今回は、松竹音楽出版より音楽プロデューサー高石真美さんをご紹介します。

Q.まず、音楽プロデューサーとはどのような仕事でしょうか。

高石:一言でいうと、映画の音楽を制作する仕事です。その中でも、大きく二つの仕事があります。一つは、映画音楽のコーディネートです。まず、監督や企画プロデューサーの意向を汲み、どんな音楽家がいいのか話し合いながら選定します。次に音楽家に台本を読んでもらい、可能であれば実際に現場にも足を運んでもらいます。現場の雰囲気や撮影の空気を感じてもらうことで、作品の世界に入りやすくなることも多々あります。その後、音が入ってない状態の映像を見て作品の出来上がりのイメージをつかみます。どこにどんな音楽を入れていくのか、具体的に入れていく箇所を決め、曲のデモのやりとりをしながら曲を固めていきます。さらに、レコーディングを行い、ダビングをし完成です。このような作品の場合、既に発売されている楽曲を使用することもあるので、使用許可を取らなければなりませんし、「こういう曲はどうですか」と監督に提案をすることもあります。音楽を入れる箇所を決めてから、レコーディングまでの作業は約1か月で行います。
 二つ目には、予算管理です。決められた予算の中で先ほどの音楽家をキャスティングしたり、レコーディングスタジオを取ったり、楽曲制作ができるように進行します。
数日間におよぶダビング作業

―制作現場には、どのような人たちが関わるのでしょうか。

高石:監督、プロデューサー、音楽家が中心となります。また「選曲」あるいは「音楽編集」とよばれる人たちも一緒に作業を行います。選曲とは、音楽家が作ってきた楽曲を最終調整をしながら実際にシーンにあてはめていく作業をすることです。

―音楽家はどのように選んでいくのでしょうか。

高石:監督やプロデューサーのイメージを聞き、また監督がこれまでにどの様な作品を作られてきたかも参考にしながら候補を考えます。あとはクラシックから最近の流行の音楽まで好き嫌いをせず、日頃から何でも聞くようにしています。監督から「こういう音楽を作れる人はいないか」と聞かれることもあるので、いつでも提案できるよう気になる音楽家がいればチェックをし、自分の中の引き出しを蓄えておく必要があります。

―プロデュースされる中で、大切なことは何ですか。

高石:常に監督の意向や作品に沿った形で作曲されているかということです。音楽家の作業を見守り、必要であれば監督の思いを伝える場を作り、躓くようであれば発想の転換ができるようにすることもあります。

Q.これまで数多くの作品を手掛けられてきた中で、心に残っている音楽を教えてください。

高石:大変だったのは、『ソロモンの偽証 前篇・後篇』(2015年、成島出監督)のU2の楽曲「With Or WithoutYou」をエンディング曲として使用した時。既成曲の使用でしたので許可を取ろうと試みたのですが、使用は非常に難しそうな状況でした。そこでビデオレターを制作し、現地へ送りました。この映画の魅力、そしてなぜあなたの曲が必要なのか…。ビデオに向かってプロデューサーの思いを伝え、手紙も送りました。最終的に劇中での使用が決まり、U2の音楽がエンディングテーマとして映画のラストで流れることとなりました。
後は『日々ロック』(2014年、入江悠監督)という、バンドがテーマとなった作品です。その中の一場面に非常に苦労をしました。帰ろうとしていた観客がある音楽が聞こえてきたことをきっかけに、思わず戻ってくるという場面です。台本上ではたった一行の表記でしたが、そのような音楽を制作することは簡単なことではありません。また全ての音楽曲が物語において意味のある曲ばかりでしたので、いしわたり淳治さんという実際にバンドも手掛けられている音楽プロデューサーに曲のプロデュースをお願いしました。バンドの音楽=作品のカラー。まずは、原作に描かれるバンドが音楽を実際に鳴らすとどんな音がするのか、カラーを一から作っていくというところから始めたのを覚えています。
『ソロモンの偽証 前篇・後篇』台本と楽譜

Q.近年、映画における音楽の在り方というものがより重要となり、大きく変化をしつつあると思います。音楽プロデューサーとしてそういった変化をどのように見られていますか?

高石:音楽制作のデジタル化によって、より映像に寄せた音楽づくりがされるようになったと思います。昔と違い今やPC一台あればどこでも制作できる時代。映像編集のデジタル化に伴い、映像を手元において作曲できるようになりました。「こんな音楽にしてほしい」といえば簡単に修正もできるし、作曲家とコミュニケーションをとりながらその場で試すこともできる。また音楽が完成してからさらに音を編集したり、再構築することも容易になり、より柔軟な発想でできるようになりました。
 一方で映画音楽がBGM化してしまうことに気を付けなければならないと、感じることもあります。作業がデジタル化したことで、映像の雰囲気に音楽を合わせることが容易になりました。場面の状況や登場人物の思いを汲み取るという劇伴本来の在り様がブレないように注意する必要性を感じています。
映像を見ながら進行するレコーディング作業

―他に映画音楽制作現場はどのように変化をしていますか。

高石:音楽制作の進め方が多様化しています。従来通り映像の編集が固まってから作り始める作曲家もいれば、音楽先行でデモを出してくる作曲家もいます。ですので、監督やアーティストによって柔軟に対応しなければなりません。また、今の映画の製作費は減る傾向にあり、全て生のオーケストラで収録することが難しい場合もあります。シンセサイザーでの打ち込みを取り入れたり、録音の仕方を工夫するようにはしています。

Q.高石さんの思う音楽プロデューサーとはどのような仕事でしょうか。

高石:プロデューサーとはクリエイターとクリエイターをつなぐ仕事です。自分の中の器を常に大きく持ち、自身がクリエイターになってはならないと思っています。

―求められる能力は、どのようなことでしょうか?

高石:客観的に思うことは、作品を読む力。映画が好きであること。人に対する好奇心と柔軟さです。プロデューサーという仕事は、音楽に限らずあらゆる世界を知り、その中から咀嚼して自分なりの答えを持っておかなければなりません。様々なジャンルの映画を観ることや作品の本質をつかむ力も必要だと思います。

Q.最後に、高石さんにとって映画音楽とはなんでしょうか。

作品の顔である主題歌のチェック
高石:BGMにならない、気付きを与える音楽です。
例えば『空飛ぶタイヤ』(6月15日(金)公開、本木克英監督)で作曲をしてくださった安川午朗さんは、ドラマティックに心情や出来事を音楽であおり立てるのではなく、その作品の根底にあるテーマを常に感じさせる音の響きを作ってくださいました。群像劇で登場人物も多いですが、その響きがそれぞれの立場を明確に伝えてくれています。『白ゆき姫殺人事件』(2014年、中村義洋監督)の音楽制作をしてくださった際も、殺人事件を扱った映画であるにもかかわらず、最初に送られてきたメインテーマのデモはどちらかといえば陽気なラテン調の音楽でした。これにはとても驚きました。しかし音楽を聞いた後もう一度作品を見返したとき、その意味が分かりました。この作品の根底に流れるテーマは殺人の狂気さではなく、SNSによるコミュニケーションが中心となった現代社会における人が作り出す滑稽さなのだと…。恥ずかしながら、安川さんの音楽によって、初めて私はそのことに気づきました。
 映画音楽には、作品の魅力を引き出す強い力があると私は思っています。だからこそ、これからも作品の本質をつかむ音楽づくりをしていきたいと思います。

高石真美(たかいし まみ)
松竹音楽出版 音楽プロデューサー
1992年入社。現在は松竹音楽出版勤務。映画製作部(現・映像企画部)、映画宣伝部を経て現職。『曇天に笑う』他数多くの映画音楽を手掛ける。2018年度全国公開の『空飛ぶタイヤ』、『旅猫リポート』、『虹色デイズ』、『かぞくいろ』でも音楽プロデューサーとして活躍中。

2018年5月16日公開