映画・アニメの世界

vol.1 映画プロデューサー

映画は膨大な仕事の末に生まれますが、始まりは一人のプロデューサーから。
今回は映像企画部長・吉田繁暁氏に話を聞きました。

Q:プロデューサーとして、作品を製作するときに心がけていることは何ですか?

BECK
吉田:まず「誰が何を今一番観たがっているか?」を意識すること。そして予測すること。
作品には、できるだけ多くの人に観ていただく、喜んでいただくというゴールがある。プロデューサーは自分の好きなもの、観ていただきたいものを信じるとともに、観る人の像をしっかり想像しなければなりません。ただ「今一番世の中の人たちが観たいものが何であるか?」は不確定な要素ですね。一般的に、映画は企画から公開まで最低でも1年以上はかかり、公開時に世の中の多くの人たちが何を欲しがっているか?求めているか?を予測しなければいけません。これが全てですが、本当に難しいことで、私たちプロデューサーはずーっとこれを抱えて考えて生活していなければいけません。
二つ目は、「テーマと感動」をつくる、です。面白かったでもいい、泣けたでもいい。主人公みたいな大人になりたいと、自分の人生に重ねるのもいいんです。映画を観ていただいた後、何かを心の中に「お土産」として持って帰れる作品というのが良い作品だと思っています。
ただこの二つは、映画製作にかぎらず何かをつくって世の中に送り出すすべての人に共通していることですよね。
ホットロード
――感動にも色々な種類があるのでしょうか。

吉田:そうですね。エンドクレジットの曲が良かった!というのも、感動の一つだと思います。主役の男の子の言葉が胸にずんと響いた、これももちろんその一つでしょう。
感動と聞いて思いだすのは、ある脚本家から言われた「今のドラマが面白くないのは、感動を目当てにしていないから」という言葉です。例えば、このシーンで泣かせるのはベタすぎる…と思って、お洒落な演出でごまかしてしまうことってあるんです。ここというポイントから逃げずに、思いっきり観ていただく方に感動していただく。
なにはともあれ、お客様が感動できることを第一に、しっかり作り込んでいくことが大事だと思います。
そして、心がけていることの最後は「一生懸命作る」です。人を笑わせたり、泣かせたりするのは、そんな簡単なことではないと、いつも思っています。だから何百万人の人に見てもらおうと思ったら、自分の全てをその作品に注ぎます。一生懸命は一生を懸けて命がけでつくるということだと思っています。

Q:他に、プロデューサーとして求められるものは何でしょうか?

好きっていいなよ。
吉田:一つは「セレンディピティ」ですね。幸運をつかみ取る能力と言われていますが、たゆまぬ努力をし経験を積んでいく中で、今世の中で最も輝いているものを掴み取る能力こそが、セレンディピティだと思います。
これはいわゆるセ・ン・スという言葉に近いです。
簡単に使われる言葉ですがこのセ・ン・スは決して一部の人に与えられた先天的なものでなくたゆまぬ努力で磨かれていくものだと信じています。だから、た くさん本を読んだり、いろんな場所に行ったり、いろんな恋愛をする、そんな中から「セレンディピティ」を上げるということだと思います。
PとJK
『PとJK』
吉田:もう一つは、「マリアージュ能力」。映画は、この脚本にこの監督、この脚本にこの役者というように、組み合わせによってできているんです。一つの要素がおもしろくても駄目で、どう掛け合わせておもしろくしていくかが大切なんです。
料理も頭からずっと高級A5サーロインだけ出てきたら飽きます。鮑にキャビアにサラダに海鮮にご飯。そしてそれらに合うワイン。そのマリア―ジュ力が高ければ高いほど、お客様は満足して感動して帰っていただくことができます。プロデューサーには、料理店のシェフとオーナーとサーブのすべてにおいての高い能力が求められます。

Q:創業から120年以上、映画をつくり始めてやがて100年を迎える松竹。 長い歴史で受け継がれて来た「松竹のDNA」を、どのように受け止めていますか?

植物図鑑 運命の恋、ひろいました
吉田:「人間を描く」ことを大事にするDNAは、やはりあると思います。言葉で語り継がれて来たというよりは、社員に染み付いていると言ってもいいかもしれない。
社長の迫本も「映画で大切なのは人間の善い面、悪い面も含めてきちんと人間を描くこと。しかしトータルとして人間を善意の眼で見る。全てのお客様に向けて作品を作るが、どちらかといえば、弱い立場の方々にとっての応援歌になるものを作ること」と言っていますね。
HiGH&LOW THE FINAL MISSSION
11/11から公開している『HiGH&LOW THE FINAL MISSSION』、これは自社製作作品ではありませんが、まさにこのDNAに当てはまる作品と思っています。
私たちが作る作品ということではなく、松竹が関わる作品すべてにその粉は降り注がれていると考えています。

Q:近年、松竹がつくっている映画作品についてお話しいただけますか?

超高速!参勤交代
吉田:シニア層に向けた松竹作品のイメージを持たれている方も多いかと思いますが、近年は10〜20代に向けた作品も意識的に作っています。『好きっていいなよ。』(2014年)や『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)は、10代~20代の女性が友達と一緒に楽しめる恋愛ドラマとして打ち出し、興行的にも成功しています。今年ですと『PとJK』が挙げられますね。
殿、利息でござる!
――映画のジャンルの幅が広がっているということでしょうか。

吉田:そうですね。若いお客様に向けた作品だけでなく、シニア層に人気の高い、山田洋次監督作品や喜劇要素のある時代劇も作っています。例えば、『殿、利息でござる!』(2016)や『超高速!参勤交代』シリーズが記憶に新しいかと思います。
誰でもいいではなく、誰に向けて観ていただくために作るものなのかを明確にする。そして、松竹作品が様々な年代のお客様に触れられるよう、ジャンルに幅を持たせる。この二つが大切だと思います。
2018年のラインナップにも、ぜひご期待ください。

吉田 繁暁(よしだ しげあき)

松竹株式会社 映像本部映像企画部長 プロデューサー
映画『伝染歌』『BECK』『ジャッジ!』『好きっていいなよ。』『ホットロード』
『天空の蜂』『東京喰種』などの映画の企画プロデューサーを務め現在に至る。

2017年11月22日公開