映画・アニメの世界

vol.5 編集

物語を創り構成する
編集 西潟弘記

静かな部屋の中で、何度も流れる同じ場面。パソコンのキーボタンの音一つで、物語に流れる空気は変わります。まだ観ぬお客さんに喜んでもらうため、コマ単位の物語を紡ぐ仕事があります 。今回は松竹映像センターより編集、西潟弘記さんをご紹介します。

Q.映画編集を志すようになったきっかけを教えてください。

西潟:映画が好きだったからです。子どもの頃から家族で映画を観ることが多く、中学生の時には「映画で仕事がしたい」と漠然と思うようになっていました。始めは映画監督になることが夢でしたが、とある監督のインタビュー記事に「“編集”という仕事は面白く、映画作りにおいて大切である」と書かれているのを読みました。それをきっかけに編集の勉強をしたいと思うようになりました。 ちょうどその頃、当時松竹が運営をしていた鎌倉映画塾の1期生募集の記事を見つけ、編集コースに入学をしました。最終的に編集志望として残ったのは私一人でしたが、松竹の大船撮影所が卒業生を受け入れてくれることとなり、2年間大船撮影所で『男はつらいよ』シリーズや『釣りバカ日誌』シリーズで見習いに付くことができました。その後、神奈川メディアセンター(社名変更し、松竹デジタルセンターとなる)に移りテレビ作品などを担当、松竹の編集部とダビングチームが合流し現在の松竹映像センターとなり現在に至ります。

Q.編集とはどのようなお仕事でしょうか。

西潟:撮影は、台本の順番通りではなく、順不同に撮影されていきます。最初はそれらバラバラの素材を、現場のスクリプター(記録)さんから送られてくる監督の意向やカット割が書かれた『シート』を頼りに、一つひとつ組んでいきます。撮影期間中は基本的に独りの作業でこれの繰り返しです。基本的にカット割や順番は決まっていますが、より場面を魅力的にみせるために、カット1、カット3、カット2などカット順を替えたりシーンを入れ替えることもあります。
 撮影終了後映像全体をスタッフと一緒に観ます。これを「ラッシュ」と言います。ラッシュ後に「○○のシーンやめようか?」などの打合せをし、監督が編集室に入られ、さらに細かく編集していきます。カットやシーンをはずすことを「オミット」と呼びますが、オミットは、監督、プロデューサーなどとコミュニケーションを取りながら決めていきます。この「ラッシュ」−「打合せ」−「編集」を数回繰り返し、ブラッシュアップしていきます。

―CGなどといった映像技術はどの段階で編集に反映していくのでしょうか。

西潟:撮影前の打合せを行い、尺に影響がある場合は撮影中に仮のラフをVFXチームに作ってもらい、イメージをあらかじめ掴みます。ダビング音響作業もあるので、編集業務と同時進行で合成チェックを行います。監督のOKがなかなか出ない場合もあるので、後半は時間との戦い。時には、ぎりぎりで差し替えることもありますよ。

―撮影現場には、実際に行かれますか。

西潟:行けるときは行きます。現場で聞いた話を参考にすることもありますし、先輩からは「現場の空気は知っておいたほうがいい」と言われたこともあります。一方、「現場が苦労しているところを見てしまうと、切りにくいのでは?」という意見もありますが…、あまり気にしないです(笑)現場によってそれぞれですね。監督の要望を改めて確認することもできますし、行けるなら行った方がいいんでしょうね。
―作品につき何人の編集者が携わり、どれくらいの時間でできあがるのでしょうか。

西潟:デジタル編集になってからは、技師一人と助手一人の二人体制がオーソドックスです。別々に届いた映像と音を助手が「音付」の作業といって、映像と音声を一つのファイルにする作業をします、それをシーン・カット順に単純に並べます。そこから編集技師は、編集作業をスタートします。撮影中も編集作業を進めていますが、撮影が終わってからおよそ1カ月弱くらいが本格的な編集期間ですかね。
―テレビドラマと映画では編集作業においてどのような違いがありますか。

西潟:一番大きな違いは「時間の制約」です。2時間ドラマの場合、実尺は約90分、映像も6~8ロール程度に切り割けます。更に「22時またぎ」といって、例えば「21時50分〜22時5分まではCMを入れない!」など局によってフォーマットも各々あります。CMの入れ所、どう視聴者を引っ張るか?がテレビドラマを編集する際に気をつける点です。映画の場合はそこまで時間の制約はありませんが、シーンのつながりが悪い場合、「CM入れてこのシーン飛ばしたいよね?」などとスクリプターさんと冗談で話すこともあります。

Q.フィルムからデジタルへという技術の発展により、映画の編集は時代の流れをとても感じるかと思います。近年のデジタル化により、現場はどのように変化をしたのでしょうか。

西潟:ポジフィルムといってオリジナルネガ(映画の元となるフィルム)をコピーしたモノと、シネテープという音のみが録音されているフィルムを、カッターとテープで切っては貼りを繰りかえしていました。私が撮影所に入った当時は、技師一人と画をつなぐチーフ(ネガ編集も担当)と音をつなげるセカンドの助手二人体制でした。 デジタルに変わったことで、PCのスキルはある程度必要だなと感じています。また、映像がすぐに確認できたり、何度でもやり直せたりと試行錯誤ができるようになった分、細かいところに拘りがちになる傾向もあります。しっかりと全体のリズムを考えたうえでやらなければ、作品のトーンがブレてしまったりする可能性がそれだけあります。デジタルのいい面も悪い面も分かった上で付き合っていかなければならないと思っています。 最近では、フィルムで映画を撮ることも少なく、松竹でも山田組(山田洋次監督)だけですし(男はつらいよ50は遂にデジタル化)。それだけ、フィルムを扱うことができる人材というのも日々いなくなりつつあるのが現実です。
―作業効率時間はどうでしょうか。

西潟:デジタル化によって便利になってはいますが、意外にも助手の作業は増えたと思います。とにかく編集後の各種のデータ出しが多い!また、VFX、録音部、効果部、音楽家などそれぞれに映像データの書き出し、更にアップロード、一カ所編集を変えたら全部出し直し…。作業時間はかつてのフィルム作業よりかかっていると思います。

Q.最後に、「編集者」に求められるものとは何でしょうか。

西潟:コミュニケーション力です。編集という仕事は一人でこもっているイメージがありますが、実際は違います。監督、スクリプター、プロデューサーなどとのディスカッションが必要です。様々な人の意図を汲んで仕事をしなければなりません。あとは、リズム感が大事です。『緩急をつける』というのは昔からよく言われていました。カットの長い短いに限らず、どうお客さんを飽きさせず、テンポ良く観せることができるか?「気持ちの良いテンポ」は人によって異なりますが、間の取り方一つで作品の印象も変わりますので作品全体の流れを考えながら編集するように気を付けています。「編集の仕事とはなんですか?」と聞かれることがあります。僕は、「編集室は物語が創られる場所」と考えています。ただ決められた通りつなげているわけではない。これからも一つひとつの物語を紡ぐようにして考えながら編集をしていきたいと思います。

西潟弘記(にしがたひろき)
1992年鎌倉映画塾1期生入塾。94年大船撮影所、96年神奈川メディアセンター(現・松竹映像センター)入社。『釣りバカ日誌〜新入社員浜崎伝助』、『雲霧仁左衛門3』などのテレビ作品、『スイートプールサイド』、『虹色デイズ』など劇場映画作品を担当。『こんな夜更けにバナナかよ』が公開間近(2018/12/28 公開)。

2018年11月20日公開