映画・アニメの世界

【作品データベース】父よ母よ! ちちよははよ!

作品情報

INTRODUCTION
上映時間・132分
斎藤茂男のルポを原作に、非行に走る若者たちの実態を追っていく問題作。両親のあふれんばかりの愛を受けて育ち、また戦争で多くの若い命が失われていったことを知る木下惠介監督は、戦後35年経って平和になったはずの日本でなぜこのようなことが起きるのかを冷徹に追求し、やがて彼らの親たち(その多くは、奇しくも木下監督が56年に『太陽とバラ』で糾弾した太陽族世代でもある)に責任の矛先を厳しく向けていく。再現ドキュメント形式で、語り部の記者(加藤剛)はクライマックスまで姿を見せず、さらにはアニメーションまで駆使するなど実験精神も豊富に、「父よ! 母よ!」と心の中で叫び続ける子供たちの声になぜ親は応えないのか?と怒りを露わにする木下監督の想いが強く心に響く意欲作である。

STORY
親の愛に飢えていた江美(夏江麻岐)は、中学生になると髪を染め、マニキュアを塗り、夜の闇にさまよっていた。やがて、彼女はディスコで俊二(原千明)という、やはり冷たい家庭で育った少年と知り合った。その三日後、オートバイ狂の俊二は事故で死んでしまう。二人の間にどんな魂のふれあいがあったのか。江美はこの少年についてあまり語らず、少年の死を機に彼女の反抗はエスカレートしていく。淳一(入江則雅)は幼稚園の頃から自立の芽をつまれ、過保護に育った。淳一の反抗は中学二年でピークをむかえ、暴力をふるい部屋に閉じ込もる。夫婦(田村高廣、岩崎加根子)仲の悪い親は息子のことで真険に相談することもなく、父親が腕力で制裁したり、担任の先生を呼んで荒療治を加えたりする家族だ。「オレのことなんか、何もわかっちゃいない、オレを施設に入れるんなら、家に火をつけてみな殺しにしてからだ!」淳一の言葉は、胸の底から噴出する激しい悲鳴であった。由香里(佐藤敏江)に非行の兆しが見えはじめたのは中学二年のとき、繊維工場を営む父が不況のあおりを受け、借金に追われている頃だった。「みんなで死んでしまおう……」と口ばしる父親を励ましながら、母は、昼は工場へ夜はキャバレーへ必死になって働いた。しかし、暮らしは楽にはならなかった。ある日、由香里はスーパーで万引きして捕まり、それが引きがねになったかのように、タバコを吸い、学校をサボっては夜の街を遊び歩くようになり、暴力団のワナにはまり、やがて捕導され鑑別所に送られていく。喜久蔵(水野広)が窃盗百件の非行少年として教護院送りになったのは小学校六年のとき。十五歳になるとテキ屋の組員になり、今ではサラ金の取り立てでスゴむ喜久三少年にも暗い過去がある。小学校五年のとき、大好きな母が事故で死んだ。酒びたりの父はますます荒れ、彼のかわいがっていたハトを殺したり、貯金を持ち出しては飲んでしまう。少年にとってこんな父との二人暮しは耐えがたいものだった。幸夫(岡元達哉)が北海道にある家庭学校を卒業して結婚したのは去年の春。十年前に離婚した両親は顔を合わすのを避け出席せず、学校で世話になった浅川先生(若山富三郎)一人が出席、親のかわりに何度も嫁の家族に頭を下げてくれた。嫁側の席の二十一人対一人が写っている結婚記念写真は、幸夫の辛く、忘れられない想い出だ。冬樹(石田純一)も同じ学校の卒業生だった。ある日、鉄工の下請会社で働く彼から浅川先生に「恋人ができたから会って下さい」との手紙が来た。冬樹の恋人は、先天性の重い心臓病を負っていたが、先生は心から二人を祝福した。だが一ヵ月後、冬樹は彼女と別れた。小さい頃、父は行方不明、母は酒飲みで全くかまってもらえなかった彼にとって、彼女が子供を産めない体と知ったとき、深い悲しみにおそわれた。「せめてちゃんとした家庭を持ちたい」これが冬樹のギリギリの願望だった。

キャスト・スタッフ

- キャスト -
三原順子
滝沢美幸
吉田康子
夏江麻岐
- スタッフ -
原作:斎藤茂男
監督:木下惠介
脚本:木下惠介
撮影:小杉正雄
音楽:木下忠司

配給:松竹
©1980松竹株式会社

ジャンル:現代劇