映画・アニメの世界

松竹の映画製作の歴史 Part11 〈映画の主題歌の始まり〉

1923年

船頭小唄

1923(大正12)年1月8日に麻布松竹館で公開された無声映画『船頭小唄』が、大ヒットしました。この映画は、同僚監督の伊藤大輔からワラ半紙2、3枚のメモを受け取った池田義信監督が、正月公開に間に合わせるべく初冬の利根川べりでロケを敢行、セット撮影も含めて5日間で撮り終えたとされます。ヒロインの女船頭の粟島すみ子は、ともかく唄が入るからと、舟を漕ぎながら大口を開けて適当な唄を歌い、映画館ではスクリーンの陰で女弁士が、栗島の口に合わせて歌っていました。 「おれは河原の枯れすすき/同じお前も枯れすすき/ どうせ二人はこの世では/花の咲かない枯れすすき」
船頭小唄
『船頭小唄』(監督・池田義信)

野口雨情作詩、中山晋平作曲の甘く哀しいこの唄の流行とともに映画も大評判となり、またたく間に全国を風靡しました。これが映画主題歌、あるいは小唄映画と言われる始まりです。 ちなみに、この「船頭小唄」は1957(昭和32)年、民衆詩人、野口雨情の放浪生活を描いた純愛作品『雨情物語』(東宝配給)の主題歌として森繁久彌が歌い、息の長い流行歌となりました。

1929年

蒲田行進曲

1929(昭和4)年のこの頃、蓄音器とレコードの普及も著しく、流行歌ブームが訪れようとしていました。これに火をつけたのが、映画とレコードのタイアップで大成功した、3月3日公開の島津保次郎監督『君恋し』で、レコード会社は争って映画会社とタイアップし、蒲田撮影所もコロムビアとジョイントして、主題歌レコードの宣伝を先行させる作品を製作・公開しました。9月の五所平之助監督『親父とその子』に挿入されたのが、外国曲「ソング・オブ・ヴァガボンズ」に堀内敬三が詩をつけ編曲した「蒲田行進曲」です。「……輝く美の理想/とこしえのあこがれに/生くる蒲田/若き蒲田/キネマの都」の歌詞が謳歌するように、松竹蒲田、松竹映画への永遠の応援歌として、今もなおJR蒲田駅で流れています。
蒲田行進曲
コロムビア・レコード「松竹映画小唄・蒲田行進曲」

1931年

私の青空

日本映画の本格的なトーキー第1作『マダムと女房』が製作・公開されました。1931(昭和6) 年のことです。映画のラストで流れる「狭いながらも楽しいわが家/愛の火影のさすところ……」という挿入歌「私の青空」は、家族の団欒へと夕暮れに家路をたどるひとときを唄う内容で、同時に当時の、一軒家に憧れる人々の気持ちを代弁していて、21世紀になった今でも、思わず口ずさむ歌として親しまれています。

1938年

旅の夜風

「花も嵐もふみ越えて/行くが男の生きる道……」。1938(昭和13)年、大ヒット映画『愛染かつら』の主題歌「旅の夜風」は、西條八十作詞、万城目正作曲、歌は霧島昇とミス・コロムビア。「悲しき子守唄」とカップリングでコロムビア・レコードから発売され、当時で80万枚という驚異的な売れ行きでした。この映画の原作は川口松太郎の小説で、講談社「婦人倶楽部」に連載されていました。そして、川口松太郎は、小説のヒントを得たものとして、西條八十の謡「母の愛」を挙げていて、主題歌の歌詞も西條八十に依頼したとされています。

1939年

純情二重奏

1939(昭和14)年、松竹とコロムビア・レコードが提携した映画『純情二重奏』。西條八十作詞、万城目正作曲で霧島昇と高峰三枝子が歌いました。声楽家への夢を抱く栄子を高峰三枝子、ライバルの八千代を木暮実千代が演じました。監督は佐々木康で、ほかに松原操、伊藤久男、淡谷のり子、松平晃、二葉あき子、霧島昇など、昭和の歌謡界を代表する歌手が数多く出演しました。
純情二重奏
『純情二重奏』(監督・佐々木康)

1945年

リンゴの唄

1945(昭和20)年10月10日、映画『そよかぜ』が公開となりました。連日の空襲で意気消沈している日本人に明るい映画を、として撮影された佐々木康監督による松竹大船撮影所製作作品です。戦後のGHQ(連合国軍総司令部)の検閲を通った第1号映画としても知られています。この映画の挿入歌である「リンゴの唄」は、少女歌劇の並木路子が歌い、戦前と戦後の歴史的接点を象徴する唄として、今日もなお愛される大ヒット曲となりました。作詞はサトウハチロー、作曲は万城目正。「赤いリンゴに 口びるよせて/だまってみている 青い空/リンゴはなんにも いわないけれど/リンゴの気持は よくわかる」
リンゴの唄
『そよかぜ』(監督・佐々木康)

余話

懐かしの映画大全集〈松竹映画篇〉

松竹映画〈90周年〉にあたる2010(平成22)年に発売されました。上記のように、戦前から日本映画界を牽引してきた松竹映画を特集。コロムビアに残された松竹映画の主題歌とともに、松竹が保有する音源を収録して、歌と名シーンを組み合わせ、スターたちの台詞と音楽で綴っています。
懐かしの映画大全集〈松竹映画篇〉
懐かしの映画大全集〈松竹映画篇〉
ディスク:1
1. 旅の夜風 (映画「愛染かつら」) (MONO)
2. 愛染夜曲 (映画「続・愛染かつら) (MONO)
3. 悲しき子守唄 (映画「愛染かつら」) (MONO)
4. 愛染草紙 (映画「愛染かつら(完結篇)」) (MONO)
5. 人妻椿 (映画「人妻椿」) (MONO)
6. 古き花園 (映画「春雷」) (MONO)
7. リンゴの唄 (映画「そよかぜ」) (MONO)
8. 可愛いスイートピー (映画「はたちの青春」) (MONO) <ボーナス・トラック>
9. 浅草の唄 (映画「浅草の坊ちゃん」) (MONO) <ボーナス・トラック>
10. 港の恋唄 (映画「踊る龍宮城」) (MONO) <ボーナス・トラック>
11. 花の素顔 (映画「花の素顔」) (MONO) <ボーナス・トラック>
ディスク:2
1. 純情二重奏 (映画「純情二重奏」) (MONO)
2. 懐しのブルース (映画「懐しのブルース」) (MONO)
3. 別れのタンゴ (映画「別れのタンゴ」) (MONO)
4. 想い出のボレロ (映画「想い出のボレロ」) (MONO)
5. 情熱のルムバ (映画「情熱のルムバ」) (MONO)
6. 牧場の花嫁さん (映画「情熱のルムバ」) (MONO)
7. 恋は馬車に乗って (映画「脱線情熱娘」) (MONO) <ボーナス・トラック>
8. ぺ子ちゃんセレナーデ (映画「ペ子ちゃんとデン助」) (MONO) <ボーナス・トラック>
9. 恋の睡蓮 (映画「女性三重奏」) (MONO) <ボーナス・トラック>
10. カルメン純情す (映画「カルメン純情す」) (MONO) <ボーナス・トラック>

 次回・Part12〈総天然色映画と充実の1950年代〉